100年前には想像もできないほど多くの飛行機が世界中の空を飛び回っている現代。日々の航空技術の進化は目覚ましいものがあります。また、地上を走る自動車の分野でもAIを駆使した自動運転技術が現実味を帯びるまでに進化を遂げています。そんな最先端の工業製品が世に送り出されるとき、切っても切れない関係にあるのがねじやボルトを使った組立作業です。
目覚ましい進化を遂げる現在の工業技術を陰ながらに支えている「ねじ」。その締結理論は100年以上前におおよそ確立されており、今日でもその理論に基づいて設計や組み立てが行われています。そんなねじやボルトを使った組立に欠かせないのが今回ご紹介する「トルクレンチ」です。
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トルクレンチってどんなもの?
トルクレンチとは一般的にねじやボルトを締め付ける際に、一定の力(トルク)で締め付けを行うために用いる道具の総称です。ちょっと勘違いされがちですが回転力(トルク)の大きさを測定する「トルクメーター」とは別のものとして捉えられています。
「「なぜトルクレンチが必要なのか」」
それではなぜ、トルクレンチが必要なのでしょうか?
それに関係するのが前述の「締結理論」です。ねじの締結理論の詳しい内容はまた別の機会とさせて頂きますが、簡単に言えばネジやボルトの締め付けは足りなくても締めすぎてもねじはその力を十分に発揮することができません。かりに締め付けが緩ければ、組み立てた機械の振動でゆるんでしまうリスクが高まりますし、その逆に締め詰めが強すぎればねじやボルトそのものが金属疲労を起こし、破断してしまう可能性もあります。そんなリスクをできるだけ避けるためにもボルトやねじを規定通りにきちんと締め付けることは、工業製品の組み立て現場において重要な課題となります。
どうやって一定のトルクを維持するのか?
では、トルクレンチはどのようにして一定の力でねじやボルトを締め付けることができる仕組みとなっているのでしょうか?ここではトルクレンチの基本的な仕組みについてご紹介します。
まずトルクレンチの基本構造ですが、大きく分けて3つ部分によって構成されています。
「トルク調整部」「トグル機構部」「ラチェット部」の3つの構造です。
それぞれの役割を詳しく見ていきます。
「トルク調整部」
この部分はトルクレンチの強さを決めている部分で、中身はばねとそのばねを固定してるシェルケース、ばねをししつけている座金、押されたばねの力をトグル部に伝える伝達部などから構成されています。ばねを縮めると締め付けトルクは上昇し、ばねを緩めるとトルクは小さくなります。この時このばねの強度が、使用できるトルクの上限と下限を決めています。
「トグル機構部」
この機構は、トルク調整部のばねによって得たれた押し付ける力以上の負荷が加わった際に、噛み合わせ部が外れるもしくはずれる仕組みを持ち合わせた機構部です。実際のトルクレンチではこの部分のかみ合わせがはずれることで、ハンドル部分に衝撃や「カチッ」という音が発生することで、作業者に現在の力が既定のトルクに達したことを伝えています。
「ラチェット部」
実際にねじやボルトを回す役割を担った部分です。多くのトルクレンチではラチェット機構を有した構造となっていますが、超高トルクなトルクレンチなどではラチェット機構がトルクに耐えられないなどの理由で、ラチェット機構を有さない構造のトルクレンチも存在します。
次項では、実際の製品を基に様々な種類のトルクレンチをご紹介いたします。
様々な用途に対応するトルクレンチ
一言にトルクレンチといってもその種類は多岐にわたり、用途や使用環境・使用頻度によって多くの製品が発売されています。
プリセット型トルクレンチ
アナログタイプのプリセット型トルクレンチです。写真は5N-m~40N-mまで対応可能なタイプですが、その調節は写真右のハンドルを回して行うタイプです。メーカーではトレーサビリティーに対応した、校正にも対応してくれるため、様々なシーンで案して使用することができます。
アナログタイプのトルクレンチは、電源を必要としないためどこでも簡単に使用することができる反面、規定トルクでしっかりと締めるにはある程度の経験が必要となります。
デジタル式トルクレンチ
デジタル方式のプリセット型トルクレンチです。先ほどのアナログタイプとは違い設定したトルクがデジタル表記されることで、設定値の間違いなどが起こりにくくなっています。また、規定トルク到達時には電子音で知らせてくれる機能も備えており、初心者でも簡単に扱うことができます。
この他にも用途や使用環境に応じて様々なトルクレンチが発売されています。正確なねじの締め付けには不可欠なトルクレンチ!自分の作業に見合った適切な物を選ぶことが重要です。購入前にはしっかりと比較検討をして、最適な工具を選んでください。