透過型電子顕微鏡(TEM)について

原子のイメージ

電子顕微鏡には走査型と透過型があります。以前に「計測器、測定器紹介 vol. 3 – 走査電子顕微鏡 (SEM)」で走査型についてはこのEkuipp Magazineですでにご紹介済みですので、今回は透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope, 以下TEM)についてです。

TEMは非常に広い倍率をカバーする電子顕微鏡です。数100倍〜数100万倍の範囲で拡大でき、小さな倍率下では数10μmの細胞全体の様子が観察でき、大きな倍率下では1nm以下の原子配列まで観察できます。細胞全体(数μm)の観察から、原子配列(0.1nm程度)まで観察できるというTEM。その構造についての概要、TEM像以外に得られる分析情報、画像例、そしてメーカーや価格帯などについてご紹介したいと思います。

TEMの概要

構造の概要

TEMは光学顕微鏡における光学系を上下逆に配置したものと同じであるとよく言われます。そこで、ここでは光学顕微鏡と比較してTEMの構造を説明したいと思います。

TEMと光学顕微鏡の比較図

一般社団法人 日本分析機器工業会HPより「光学顕微鏡と電子顕微鏡の比較原理」

光学顕微鏡における光源は可視光を発するランプです。可視光の波長領域は400nm〜800nmです。そのため光の波長程度より小さいものを観察することができません。他方、TEMでは光学顕微鏡における光源に相当する部分が「電子銃」という電子線を発するものになっています。電子線のエネルギーを波長に換算すると、加速電圧が300kVでは0.00197nmとなり、光学顕微鏡に比べて非常に高分解能であるため、原子のように小さいものを観察することができることがわかります。

光学顕微鏡において、可視光領域の光を「光学レンズ」を使って顕微鏡系を構成していますが、TEMでは電子線を使っているため、「電磁レンズ」という電界や磁界を用いたレンズで顕微鏡系が作られています。

顕微鏡で得られる画像は、光学顕微鏡の場合には肉眼で観察したりCCDカメラで撮影することができます。TEMの場合には蛍光板に拡大像が投影され、それをカメラで撮影することにより、私たちがTEM像を見ることができるようになっています。

TEM像以外に得られる分析情報

TEM像観察モードから「電子線回折観察モード」へは、簡単に切り替えられることができ、電子線の回折パターンからは試料の結晶構造を調べることができます。回折パターンは写真を見るとわかりやすいと思いますが、次のように3種類に分類されています。鮮明で規則正しく並ぶスポットが得られた場合に試料は単結晶であることが、同心円上の円環の場合に試料は多結晶であり、ブロードな円環上の場合に試料は非晶質(ガラス質)であることがわかります。

電子線回折パターン

一般社団法人 材料科学技術振興財団HPより「電子線回折パターンの例」

また試料に電子線を照射する際に試料から発せられる特性X線を観測することにより、試料の元素分析ができます。試料表面の元素分布をマッピングもすることもできます。この分析法は「エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy, EDX)」といいます。

さらに「電子線エネルギー損失分光(Electron Energy-Loss Spectroscopy, EELS)」装置を付属させると、元素分析だけでなく「状態分析」もできます。ここで状態分析とは、物質の構成元素や電子構造を分析することになります。電子構造の分析からは、試料の構成元素同士の結合状態を知ることができます。上でご紹介した元素分析装置(EDX)と比較して、「軽元素の感度が良い」「エネルギー分解能が高い」「空間分解能が高く、周辺情報を検出し難い」などの特徴があります。

TEMの画像例

セラミックス

加熱炉やエンジンなどの構造部材として利用される耐熱衝撃特性の高い高機能セラミックス材料である窒化ケイ素(Si3N4)を以下に引用します。周期的にならぶ花びら模様はSi3N4結晶の原子構造像です。

TEM像を観察するには電子線が試料を透過する必要があるため、試料を薄片化しなければなりません。セラミックスのような非常に硬質な試料を薄片化するには、例えば収束イオンビーム(FIB)である程度まで薄くしますが、それだけでは表面にダメージが残るので、さらに別の種類のイオンミリングなどでダメージを除去する方法があります。TEM観察には、このように試料準備だけでも一つの研究課題となるようなものが少なくありません。

セラミックス材料のTEM像

半導体

カーボンナノチューブ(carbon nanotube, CNT)は、シリコン(Si)に次ぐ半導体材料として注目されていますが、チューブの壁の部分が単層(Single-walled CNT, SWNT)のものと多層(multi-walled CNT, MWNT)のものがあります。ここではMWNTのTEM像を引用します。CNTは通常、粉末であるためそのままTEMの試料ホルダであるグリッドとかメッシュとか言われるものに軽くふりかけるだけで良い場合もあり、比較的試料のセッティングは困難ではありません。

多層カーボンナノチューブのTEM像

(株)マイクロフェーズHPより「多層CNT(MWNT)(約20層)のTEM画像」

金属

水素を燃料として走る「燃料電池車」は廃棄ガスがクリーンであるということで、こぞって研究開発が行われています。水素と酸素を反応させて電力を得る「燃料電池」の触媒として、もともと白金(Pt)が使われていますが、非常に高価な貴金属であるため、Pt使用量をできるだけ減らすために、カーボンナノチューブ(CNT)にPtを担持させて代用する方法が注目されています。以下にCNTに担持させたPtナノ粒子(粒径〜1nm)のTEM写真を引用します。母体がCNTのため、試料は粉末で、試料セッティングは通常のCNTとほぼ変わらず簡単です。

Pt担持CNTのTEM像

JFEテクノリサーチ(株)HPより「白金(Pt)触媒(大きさ1nm程度)のTEM観察」。EDX分析によりPtであることの確認もしている。

上記ではPtナノ粒子のTEM写真をご紹介しましたが、通常金属のTEM観察をするための試料準備(薄片化)はセラミックスと同様に非常に手間がかかります。イオンビーム処理以外にも、化学研磨や電解研磨なども行われています。

非生物試料のTEM用試料の作製方法については、九州大学超高圧電子顕微鏡室のテキストがWEBで閲覧できます。この資料はTEM用の資料準備について非常に詳しくまとめられていると思います。

高分子/生物

生体高分子のリポソームは、新しいデリバリーシステムとして知られています。リポソームは細胞膜や生体膜の構成成分であるリン脂質を使って水中で作れるカプセルです。生体へのなじみがよく多重層であることで、薬効成分や美容成分を長時間にわたって送り続けることができます。その多重層である様子をTEMで観察した様子を以下に引用します。

リポソームの多重構造のTEM像

またオーソドックスな細胞のTEM像も以下に引用します。

細胞のTEM像

花市電子顕微鏡技術研究所HPより「腎臓糸球体のTEMによる広視野観察(1000倍)」

高分子・生物分野の試料は、非常に柔らかい場合がほとんどです。柔らかい試料を薄片化するためには、まず透明な樹脂に包埋してそれをミクロトームという薄片を作製する機械で削るというまさに職人技が必要です。一般的な超薄切片法については、例えば岡山大学自然科学研究科の新TEMシステム知恵袋というサイトにて、まとめられた形で紹介されています。

主なメーカー・価格帯・委託分析

TEMを扱う主なメーカーは、おおよそ以下の3つしかありません。
日本電子(JEOL)
日立ハイテクノロジーズ
FEI(アメリカ本社のSEM, TEM, 収束イオンビーム(FBI)などを扱う科学機器メーカー)

TEMの価格帯は汎用機で3000万円から、加速電圧が大きなものになると1億円以上します。

TEM本体はかなり高額で、維持費もかかるため、TEMの委託分析という手もあります。1サンプルあたり、試料準備(薄片化など)も含めて5〜50万円ほどが相場ではないかと思います。

これからのTEM活用

TEMを所有するには莫大な資金が必要になり、委託分析も決して安くはありません。もう少し費用を抑えようとすると、各種施設にあるTEM設備を借りて、自分で測定するという方法もあります。地方自治体にある工業試験場や国立大学に付属の研究センターなど、利用経験のある方もいらっしゃるかもしれません。また最近では研究機器・実験技術シェアリングサービス Co-LABO MAKERという新しいサービスを提供する会社も出現しています。この会社のキャッチフレーズは「使いたい研究機器や技術を見つけ、1時間から利用できる」というもので、費用もできるだけ抑えられているようです。そしてもちろん、法人間で計測器・測定器の売買、レンタルを手がけるEwuippの存在も忘れてはなりません!各々の研究者が自分に合った研究方法を選べるというこれからの時代は、ますます自由な発想で新しい技術の発展が望めるのではないでしょうか。

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ライター紹介
ライタープロフィール
藤井暢子

小規模農業従事者、野菜ソムリエプロ、野菜栽培士。京都生まれ。大阪市立大学理学部物理学科卒業、京都教育大学大学院修了、大阪大学大学院理学研究科物理(単位取得後卒業)、2004年博士(理学)。大阪大学産業科学研究所勤務を経て、化学系の研究開発会社に8年間勤務後、2012年より農業者へ転身。実父とともに、自然農、自然栽培、無肥料、自家採種をキーワードに京都郊外で野菜を作り、地元カフェや地方家庭などへ提供している。物理と化学の研究経験をもとに、畑の研究を新しく展開するべく日々研鑽中。生物物理の研究者の夫、5歳の一人息子と同居。

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