様々な検査や製造の場面で使用される計測機器ですが、どれだけ正確に測定をしたつもりでも計測機器そのものが狂ってしまっていたり、損傷してしまっていては正確な数値を把握することはできません。
言い換えれば、計測や測定とは計器の健全性は担保されていて初めて、正確なデータを得ることが出来ると言えます。
その為、様々な計器は「校正」と呼ばれる作業によって、その計器の健全性を確認しています。
「校正」は健全性を確認する大切な作業であるため、必要に応じて専門の機関や計測機器メーカーに依頼をします。
しかし、日々の使用の中でも計器に狂いが生ずる可能性は否定できません。
かといって毎日、社外に校正を依頼することも現実的とは言えません。
そうした問題を解消のために、現場ではいわゆる「自主校正」と呼ばれる作業が頻繁に行われています。
しかし、前述の通り計測機器の健全性の担保は製品の品質に直結する大切な項目です。
間違った校正を行うことで、正確な測定や計測が出来なくなってしまっては本末転倒です。
そこで、これから数回に分けて身近な計測機器の校正について、その方法や注意点・留意すべき項目などをご紹介していきたいと思います。
このページの目次
まずは、校正の基本から
「校正」とは何ですか?
と聞かれて、その意味を正確に答えることのできる人は少ないのではないでしょうか?
また、校正という言葉とセットで使われることの多い「トレーサビリティ」と言う言葉もよく耳にします。
では、本来の「校正」の意味と、「トレーサビリティ」の意義とは何なのでしょうか?
校正とトレーサビリティの本当の意味を理解することは、計測機器管理の基本でもあるためまずはこの二つの言葉についてご説明していきます。
「校正」=正確か否かの判断、だけではない
計測機器管理の現場ではしばしば「校正=計器の健全性の確認」と認識されることがあります。
その為
「この計器は精度が悪いから校正に通らない」
といった表現で、計器の不良を訴えられることがあります。
もちろん、校正の大きな目的の一つは「健全性の確認」ですので広義では間違っていないとも言えます。
しかし、真の校正とは「計器の健全性の確認」ではなく、対象とする計器を比較対象と比較しその誤差を確認し、補正する行為を指します。
例えばアウトマイクロにおいて基準となるブロックゲージ(10㎜)を計測した結果が、10㎜と正確に表示されなかった場合に、そのズレを補正し正確な数値が表示されるようにする行為
これを「校正」と呼びます。
その為、計測寸法に誤差がある=制度が悪い=校正不可=使えない計器とはならないのです。
校正の基本は「再現性」
では、どういった場合に「校正不可」となり、精度を保証することのできない計器と言う判断になるのでしょうか?
校正できない計器の主な要因は次の3つです。
- 計測・測定寸法に再現性が無い
- 測定結果に影響を及ぼす重大な欠陥・損傷がある
- 基準となる比較対象が存在しない
以上が校正を行うことのできない主な要因です。
計測機器の健全性において最も重要視されるのは、その再現性です。
計測を行う環境が同じであれば、計測で得られる数値は常に一定でなければ計測の意味がありません。
幾ら校正によって補正を行っても、この大前提が無ければ計測データの健全性は担保できないためです。
校正には欠かすことのできない前提「トレーサビリティ」
さて、それでは計測機器の校正において使用される基準ブロックなどの比較対象はどのようにしてその正確性を担保しているのでしょうか?
ここで登場するのが「トレーサビリティ」という言葉です。
トレーサビリティーとは元々は様々な作業等の履歴管理を指す言葉で、エビデンスと近い意味を持つ言葉です。
その意味に加え校正に関連した意味として「計測機器の健全性の担保となる要因を体系的に管理する」という意味も持っています。
最後は原理・現象との比較
先ほど校正についてお話しした中に登場した「比較対象」ですが、これらの校正に使用される比較対象の健全性を、体系的に表したものを「トレサビリティ体系図」と言います。
例えば、0-25のアウトマイクロを構成するのに25ミリのブロックゲージを使用するとします。
ブロックゲージをアウトマイクロで測定した結果、対象のアウトマイクロが健全であると宣言するためには、ブロックゲージそのものが正確である必要があります。
ではブロックゲージの健全性はどのようにして確認されるのでしょうか?
その基本はより精度の高い計測器での計測となります。
そうして徐々に精度を高めていき、最終的には「原理」や「現象」といった普遍的なものとの比較によって精度を保証していきます。
この精度保障の方法や方式を総称し「トレーサビリティ」と呼び、校正の基礎をなる大切なものと位置付けれれています。
外部校正と自主校正の違い
それでは最後に現場で行われることの多い「自主校正」と、業者に依頼して行う校正の違いについてお話しします。
これまでご説明した通り、校正という行為そのものはわざわざに業者に依頼をしなくとも行うことは可能です。
一般的なメーカー校正と自主校正の最大の違いは、その精度の保証という点です。
専門の検査機関によって行われる校正では、先ほどお話ししたような「トレサビリティ」が体系的に管理されている為、校正そのものの精度を保証することが可能です。
しかし、自主校正ではそれができません。
その為、近年では計測結果の健全性を担保する目的で外部機関での校正を求められる機会が多くなっています。
しかし、本文の書き出しの通り計測機器を使用する度に外部に委託することは実質的には不可能です。
その為、多くの場合は定期的な外部校正を行ったうえで日々の使用に際しては自主校正を行うといった対策を講じています。
もちろん、「自主校正だから多少の誤差や狂いは許容される」と言うわけにはいきません。
その為にも、的確な校正手段を学びしっかりと校正を行うことが必要です。
次回からは、身近な計測機器について個別にその校正手段などを詳しくご紹介していきたいと思います。