中世に書かれた絵画がオークションなどで高値で取引される現代。
一方で複製の技術も飛躍的に向上し、本物と全く見わけのつかないコピーが市場に出回ることも増えています。
そんな絵画や古い歴史のある書物など、それが本物であるか偽物であるかを見極める方法として用いられているのが、今回ご紹介する放射性炭素測定器です。
人間の目では見えない原子レベルの判定を可能とする放射性炭素測定器について詳しくご紹介していきます。
放射性炭素測定とは?
自然界に存在するC14と呼ばれる炭素の特性を活かした、年代測定技術の総称です。
自然界に存在するC14炭素は、その含有比率が常に一定であるとされています。このC14炭素は動植物などを起源とする物質にのみ含まれており、金属などの無機物には含まれていません。
その為、放射性炭素による年代測定はこのC14炭素を含んだものに限定しておこなうことのできる測定となります。
C14炭素の特徴
放射性炭素年代測定に欠かせないC14炭素についてもう少し詳しく見ていきます。
C14炭素は動植物が生存(生きている)間は、その比率は変化しません。
一般的に炭素原子1兆個あたりの含有率は1個といわれており、非常に少ない含有率の炭素です。
このC14は動植物が生きている動物であれば食物から植物であれば地中から栄養素として供給され続けます。
しかし、動植物がその命を終えると新たなC14の供給が行われなくなり、徐々にC14が減っていきます。
C14の半減期は約5730年と言われており、この年数と実際のC14の減少量を比較することで、対象の絵画の描かれた時期を特定しています。
C14の減少量の測定方法
C14の測定方法は大きく分けて
「ベータ線計測法」
と
「加速器質量分析法」
の2種類があります。
ベータ線計測法
「ガスプロポーショナルカウンティング法」や「液体シンチレーションカウンティング法」と呼ばれる計測方法です。
C14が経年などの理由で崩壊する際に発せられるベータ線をシンチレーターと呼ばれる機器によって検知し数を数える方式です。
ただし、C14の崩壊は炭素原子1gでも4~5秒に1回程度しか起こらない為、その計測には多大な時間と多くの試料が必要になります。
また、測定器そのものが大型で非常にコストのかかる装置であるため、特定の検査機関や研究所などでの使用に限られてきました。
加速器質量分析法
近年(1970年代の後半)に開発された新しい解析手法です。
これまでのC14の自然崩壊を待つ方式ではなく、加速器によって直接C14の数を数えることで、計測そのものは1時間ほどで完了し、大幅な時間短縮が可能となりました。
また、必要となる資料も1mgほどで絵画など貴重な文化財へのダメージを最小限にとどめることができるようになりました。
加えて特定できる年度も約6万年前まで測定が可能となり、化石や地層といった地球規模での観察も行える方式です。
装置は小型化がすすんでおり、多様な用途での使用に期待される方式です。
放射性炭素測定と絵画の真贋
ここまで放射性炭素測定についてご紹介してきましたが、ここから本題です。
では、絵画の真贋がなぜ放射性炭素測定器で判断できるのでしょうか?
その仕組みについてご説明します。
重要なのは絵画に含まれる有機物
絵画の多くは布性のキャンバスの上に描かれていたり、紙の上に描かれることがほとんどです。
その下絵画の制作に使用した有機物のC14含有量を調べることで、その絵の描かれた年代を把握できるのです。
ちなみに絵画に使用される機材のうち、放射性炭素測定の試料となるもには次のようなものが挙げられます。
- 絵具(油性・水性を問わず検査可能です)
- キャンバス(布製・紙製・動物性の全てにおいて可能です)
- 油分
などです。
これらの多くはその原材料の基をたどると動物性または植物性の原料にたどり着きます。
そうした素材の年代を把握することで、絵画の書かれたとされる時期との相違点があれば贋作や複製である可能性を見出すことができます。
放射性炭素測定に使用する機器とは
放射性炭素測定のうち、加速器を使用した測定に用いる加速器です。
小型が進んだとはいえ、まだまだ大きな設備であるとが分かります。今後さらに研究が進めばポータブルサイズのものが発売される日も近いかもしれません。