金属の特性を表す数値として用いられるものには様々な試験数値が存在します。
以前にご紹介した「シャルピー試験」は金属の耐衝撃性を検査する計器でした。また硬さの観点から金属の特性を表す「硬度試験」もその一つです。
今回はそんな金属の特性を数値として表す試験機としてはもっとも有名な試験機
「引張試験機」
についてご紹介します。
このページの目次
引張試験で見えてくるのは金属の変形に対する限界強度
引っ張り試験とはその名の通り、金属を特定の方向に引っ張りその強度を把握する試験です。
金属はそれぞれに様々な特性を持っていますが、その特性の一つである変形に対する強度を検査する試験機です。
ではなぜ引張試験がもっともポピュラーな強度試験と言われるのでしょうか?
まずは金属の特性と様々な数値との互換性についてご説明します。
金属を様々な観点から評価する
金属製品(素材)に加わる様々な力には大きく分けて次のようなものが想定されています。
・引っ張り
その名の通り、金属を引っ張る方向に力が加わった状態です。
多くの金属製品で熱や機械的構造などを起因として金属に加わる可能性のある力です。
・せん断
金属を引きちぎろうとする力です。
金属をある一点から引きちぎる方向に加わる力の事を指しています。
・ねじれ
金属をねじる方向に働く力です。
雑巾を絞るように加わる力で、ボルトなどの設計では考慮されることの多い数値です。
・圧縮
金属を押しつぶす方向に働く力です。
プレス機のような構造の製品ではこの力への強度が重要視されれます。
これらの力に対する金属の耐性や強度はそれぞれに特別な試験機によって試験を行うことができます。
しかし、実際に製品としての金属に加わる力はこれらの様々な力の影響を複合的に受けていることがほとんどです。
その為、多くの場合その金属の特性を把握する方法として引張試験の数値が参考にされます。
もちろん、ボルトなどのように加わる力が一定の製品限定して使用される金属の場合はその限りではありませんが、近年ではそのような金属においても設計段階では引張試験の数値のみが規定されることが多く見受けられます。
試験数値には相互関係性がある
では、なぜ用途の決まっている金属素材であっても引張試験の数値のみが規定されるといった現状があるのでしょうか?
実は、先ほど紹介した様々な力に対する金属の強度や耐性には相互関係性があります。
この相互関係性は対象の金属によって異なるため
「引張試験の数値の2倍がせん断強度」
といったような単純な関係性ではありません。
その金属に含まれる成分やその含有量を把握し、さらに硬度との関係性を加味して初めて相互関係性が立証されます。
しかし、実際には現在流通しているほとんどの金属において引張試験の数値とその他の力に対する強度についての換算表が確立されています。
引張試験機とは?
では、実際の引張試験機とはどのようなものなのでしょうか?
ここでは引張試験機の基本的な構造と試験方法についてご説明します。
引張試験機の構造
引張試験機の基本構造は、試験片を左右(または上下)に垂直に引っ張ることのできる機構と、その時に加えている力の大きさを測定できる計器によって構成されています。
引張試験機の基本は、試験片に引張方向を力を徐々に加えていき、試験片が破断(切れる)したときに加えられていた力を数値化する物です。
その為、引張試験機では試験片をまっすぐ引っ張る構造と力を把握する機構が不可欠な要素となっています。
引張試験に用いる試験片は厳格に規定されている
当然のことながら、実際に引っ張る試験片に違いがあっては正確な数値を把握することはできません。
その為、JISをはじめとする様々な工業規格では引張試験に用いる試験片についてその太さや長さを細かく規定しています。
例えば、国内で実施される引張試験の試験片は次のように規定されています。
試験片の形状 | 板状試験片 | 棒状試験片 | 菅状試験片 | 円弧状試験片 | 線状試験片 |
比例試験片 | 14B号 | 2号 14A号 |
14C号 | 14B号 | |
定形試験片 | 1A号 1B号 5号 13A号 13B号 |
4号 10号 8A号 8B号 8C号 8D号 |
11号 | 12A号 12B号 12C号 |
9A号 9B号 |
このように、試験片に対する分類は多岐に及んでおり、それぞれに細かく寸法などが規定されています。
一般的な引張試験機とは?
最後に数種類の引張試験機をご紹介します。
ここまでは金属の引張試験を主にご紹介してきましたが、引張試験そのものは金属以外にも用いられる試験です。
その為、その用途に応じた様々な引張試験機が発売されています。
電動式 引張試験機
電動式の引張試験機です。金属の引張試験も可能ですが専らもう少し柔らかい素材の引張試験に用いられます。
測定はデジタル方式で細かく設定でき、試験によって得られる数値も豊富なタイプです。
大型 引張試験機
油圧を用いた大型の引張試験機で25000Kgまで力を加えることができます。
また引張だけでなく圧縮などの数値も計測することができる、万能タイプです。