「原器」と呼ばれるものをご存知でしょうか?
名前くらいは聞いたことがあっても、実際に現物を確認したことのある方は非常に少ないはずです。今回ご紹介する「原器」は長さや重さの基準が、現在のように化学的・不変的に定義される前の長さや重さの基準として長い間用いられてきた、いわば見本のようなものです。
今回は、測定・計測の根源にある基準と原器についてご紹介します。
原器とは?何のために必要なのか?
では、まず初めに原器についての基本的な考えや定義についてお話します。
「原器」とは「各種物理量の単位を指定するための標準機」等の表現で、説明される様々なものの基準となる人工物の総称です。
現在、国際的のその価値が認められ実運用されているのは重さの基準として保管されている「キログラム原器」のみとなっています。(重さの定義も今年(2019年)に見直しが決まっています)
原器が必要な理由とは
原器の必要性については、語るまでもないとは思いますが敢えてその存在理由を上げるのであれば、それは「確認の為」です。
その確認の基になるものそれが原器です。そのため原器は不変である必要があり、不変が確約できない場合には見直し等が行われます。
近年では原器の不変性を疑問視する声が多くなり、原器を単位の基準とする考え方そのものが見直される傾向にあります。そしてまさに今年(2019年)重さの基準が原器からシリコンの原子質量を基準とした基準に見直されることが決まっています。
役割をおえた、様々な原器
近年、見直しの進む単位の基準。その影で長年に渡り単位の基準を守り続けてきた多くの原器たちが、その役割を終えています。
ここでは役割を終えながらも、今も大切に保管・管理されているかつての単位基準、「原器」についてその構造や仕組みについてご紹介していきます。
長さの基準、メートル原器
まずは原器の王道とも呼ばれる「メートル原器」です。この原器は1897年にフランスで製造された貴金属の合金による原器です。成分は白金(プラチナ90%)とイリジウム10%の合金です。
当時の原器は迄もフランス国内で厳重に保管されており、日本がメートル法を準拠した際にはこの原器を基に製造された「日本メートル原器」がフランスから提供されました。
この時送られた日本のメートル原器は現在でも経済産業省の所轄機関に保管され、この原器をもとに様々な計測機器等の校正や製造がおこなわれました。
ちなみに、一つの基準となる物を基に様々な製品や機器の長さを保証する行為を「トレーサビリティ」と呼び、現在の計測器機の構成には欠かすことのできない手法として確立されています。
また、この原器に刻まれたメモリを1960年に刻みなおし、現在日本国内ではこのメートル原器を「基準尺」としても使用しています。
メートルの基準としての役目は1960年に役目を終えていますが、現在でも様々な場面で活躍しています。ちなみに現在の1メートルの基準は真空状態の中を光が進む距離を基準として採用しています。
いまでも現役、キログラム原器
続いては重さの基準として今でもその役割をになっている「キログラム原器」です。
キログラム原器は白金(プラチナ)で製作された原器で、こちらもメートル原器と同様にフランスにて保管・管理されています。
重さの基準であるキログラムは、一番初めは「1000ccの水の重さ」を基準としていました。しかし、水は大気圧や気温によってその体積を変化させてしまうとの問題があり、1799年に現在の白金(プラチナ)による原器へと変更された経緯があります。
こうして定期された原器は、キログラムを採用する多くの国に、基準となる物を配布する目的で40個の複製が製造され配布されました。現在でもその配布された複製の原器は40年に一度の割合で、特殊な天秤によってオリジナルの原器と差異が生じていないことを確認しています。
しかし、近年このプラチナ製のキログラム原器に新たな問題が発生しました。それは原器そのものが目減りする可能性があるとの指摘でした。
原器の重量の変化の原因は「汚れ」です。この汚れを洗浄することで約50μgの差が生じると言われています。この50μgの差が原器としての不変性を確保できないとして、問題視されるようになりました。
そこで、2019年に約129年ぶりに重さの定義が見直されることが決まっています。新しい重さの定義は「シリコン原子の重さ」を基準としいて採用し、これによって長年に渡り重さの基準として存在した、キログラム原器は表面上その役割を終えます。
原器なくして、計測機器の発展はない
今のように科学的な証明の難しかった時代に、物事の基準として考え出され製造された様々な「原器」は、近年急速にその役割を終えています。
不変的であることが、これまで以上に厳密に求められることが背景にありますが、原器を廃止することで世界共通の基準を世界中どこでも観察・利用することができるメリットもあります。
私たちが普段何気なく使っているモノサシや計測機器の根底にあった「原器」について、考えてみる機会になれば幸いです。