このプラスチックはどういう材料でできているのだろう?
そんな疑問にあっという間に答える装置がフーリエ変換型赤外分光光度計(通称:FTIR)です。
どんな原理?どんなふうに使うの?に応えます。
このページの目次
世の中のほとんどのものは分子でできている
分子ってなんだっけ?
この世の中のほとんどの物質は「分子」でできています。
分子とは原子同士が結合しているもののことです。
中学生のころ、習った覚えがありますよね。
分子じゃないものをあげると、例えばハロゲン元素(ヘリウム・ネオン…)ぐらいでしょうか。
本稿では主に有機物のことを分子としてお話させていただきます。
分子はいろんな運動をしている
分子結合をプラスチックモデルなどで見たことありますか?
分子はモデルのようにピタッと動かない状態で存在していません。
実はぶるぶる・そわそわ…と動いているのです。
例えば水分子は「やじろべえ」みたいな形ですよね。
酸素原子が中心にあり、水素分子2つが104.5°の角度で結合しています。
水分子は主に3つの分子運動をします。
- 水素原子が上下にぶるぶる震える(変角運動)
- 水素原子の2つの結合が同時に伸びたり縮んだりする(対称伸縮振動)
- 水素原子の2つの結合が互い違いに伸び縮みする(非対称伸縮振動)
水のようなシンプルな分子でも、このように動き方にバリエーションがあるんですね。
分子運動の仕方は分子の個性
これらの運動は、分子の成り立ちによってかなり変わってきます。
単純に言えば、原子の重さが変わると波長も変わります。
繋がっている原子の数が多くなったり二重結合していたりすると、もっと複雑な動きをします。
つまり、分子運動は分子の個性そのものを表しています。
フーリエ変換型赤外分光法とはなにか?
フーリエ変換ってなんだ?
フーリエ変換!って難しそう…と思われますが、実際の公式は本当に難しいです。
なるべく簡単な表現で説明させていただきます。
例えば、海の波で考えて見ます。海の波は
- 月の引力
- 雨や風などの天候
- 岸壁からの反射
- 地震などの地殻運動
などの影響をうけています。
海を眺めてみて不規則に波立っているのを観察してみても、どの影響が一番大きいのか分かりにくいですよね。
そこで、フーリエ変換という処理をします。ざっくり言うと、各自然現象には一定の波長を持っているとして、その影響度を縦軸にプロットするのです。
これらの影響で最も身近でわかりやすいのは「月の引力」だと思います。大潮の時は高く波立ち、小潮のときは小さくなります。つまり影響度は大潮の時が最大になるということです。
小潮の時に台風がくれば、台風の影響で波が大きくなります。
風が起こした波は、月の引力が作る波とは別物です。
フーリエ変換をすることによって、雑多な波が各現象にどれほど影響されているかがわかるようになります。
分子運動を見て材料を判断する
それは分子運動についても同じことです。
赤外光(波長25〜2.5μm)を分子に透過すると、分子運動によって吸光します。
吸光とは、分子運動の波長と重なった部分が打ち消しあうイメージです。
照射した赤外光は波長に対する強度が既知なのですが、分子を透過して出てきた赤外光はどの波長が吸収されたかわかりません。
そこで、先ほどのフーリエ変換をすることで、波長ごとにプロットすることが可能になり、吸収された波長が明確になります。
こうやって得られたグラフを「赤外分光スペクトル」と呼びます。
分子運動は分子の個性です。
つまり、吸収された波長と吸光度(強度)を分析することで、透過した分子が何か、どんな構造をしているのかがわかるようになるのです。
金属はNG
物質に赤外光を透過させて、赤外吸収スペクトルを測定することを「赤外分光法」といいます。
透過とありますが、この測定方法は「赤外光が透過する」ことが必要になってきます。
最も不向きなのは金属です。赤外光を透過しません。
プラスチックなどは細かく砕いてKBr (臭化カリウム) に混ぜて錠剤にしたり、薄い薄膜を作るなどして赤外光が通りやすい状態を作ることが大事になってきます。
逆に、赤外光が透過する物質は大抵測定可能です。
液体や気体も測定することができます。
フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)とは?
フーリエ変換と赤外分光法について説明してまいりましたが…
フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)は、物質に赤外光を照射して赤外分光スペクトルを得るための装置になります。
装置自体は非常にシンプルで、測定したい試料をセットし赤外光を当ててスペクトルを得ます。
フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)でできること
FTIRでわかることは、試料の分子がどのような分子運動をしているかがわかります。
実は、分子結合ごとでおおよそ波長が決まっています。
例えば…
- 水酸基(-OH基)は3200cm−1
- カルボニル基(C=O基)は1700cm−1
に吸収が出ます。分子のパーツごとの波長が現れてきます。
なので、赤外吸光スペクトルを取得することで、分子のおおよその構造が予測できるようになります。
どんな材料が使われているのか?
例えば他社製品をベンチマークのために分解して調査する際に、どのような材料が使われているか気になりますよね。
金属材料は比重などでなんとなく予測ができますが、プラスチック材料は見た目や質感で経験則がなければなかなか判断ができません。
FTIRを用いることで、プラスチック材料が何か分かるようになります。
不具合の原因を突き止めるために
信頼性試験での不良や市場不良など、不具合の際に「異物の付着」が原因だったことありませんか。
この異物がどういう経緯で来たのか、FTIRがあれば物質がはっきりするので原因追求が早くなります。
フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)のお値段は?
FTIRの価格は300万円から1000万円ぐらいです。
分かることが非常に多いにも関わらず、比較的導入しやすい方です。
装置を選ぶポイントは、試料の作りやすさです。
赤外光の強度によっては、試料を極力薄くしないといけないなどの制約が出てきます。
高い機種ほど、簡単な作業で済む場合が多いです。
ライブラリがかなり重要
最も大事なのは「ライブラリ」の充実さです。
ライブラリというのは、試料から得られた赤外吸光スペクトルがどの物質に一番近いのかを示してくれる「辞書検索機能」です。ライブラリがあるのとないのでは、分析時間が10倍違います。
ライブラリは自分で作ることもできますが、すでに用意されているライブラリを利用できる方が絶対良いです。
ライブラリはピンキリですが、50万ぐらいで1ライブラリでしょうか。
ライブラリは材料ごとで作られているので、自分にあったものを探さないといけません。
中古、レンタルもオプションに
FTIRはものづくりの設計・工程だけでなく、不具合対応などでも利用できる「有機物のスペシャル測定装置」です。品質の高いものづくりを心がけるのであれば、1台持っておきたい装置です。
でも使い方が難しいのはちょっと…高いのも…とお考えであれば、レンタルで使用感をつかんでみたりや中古品の購入を検討してみてはいかがでしょうか。
また、「持っているけどもう使わないな」という方はぜひ、買取業者に売却するオプションも考えてみてください。