蛍光寿命測定装置

蛍光灯の寿命

蛍光寿命測定装置(発光寿命測定装置とも呼ばれる)は、その名の通り物質の蛍光やりん光の寿命を測定するための装置です。蛍光およびりん光寿命を測定することで、物質の「励起状態挙動」を解釈するために極めて重要な情報を得ることができます。最近では装置の性能の向上と共に、研究開発分野での需要が急速に高まっています。特に近年盛んに研究が進められている有機ELをはじめ、生体プローブやケミカルセンシング材料など、広範な分野での発光性物質の評価に不可欠な測定装置となっています。

ここでは、蛍光寿命測定に関する基本知識や原理、応用例について紹介します。

発光とは何か

蛍光寿命測定の原理を説明する場合、まずは基本的な光化学の知識を確実に整理しておかなければ理解があいまいになってしまいます。ここではまず専門用語を整理するとともに、物質が「発光する」メカニズムを説明します。

発光現象は、物質がエネルギーを吸収した励起状態から本来安定な基底状態に戻る時に生じます。一分子のレベルでもエネルギー保存則が成り立つので、分子が外部からエネルギーを吸収した場合、それと同じだけのエネルギーを外部に放出します。発光性物質では、その放出するエネルギーの一部が光エネルギーとして取り出されます。

蛍光寿命測定装置図表1

光化学における「発光(emission)」とは物質が光を放つ現象のことを差し、具体的には「蛍光(fluorescence)」と「りん光(Phosphorescence)」の両方を指します。「蛍光」と「りん光」は励起状態から基底状態への緩和過程の違いから区別され、上の図に示す通り、緩和前後でスピン多重度の変化が起きるか否かによって使い分けられます。つまり、「発光」、「蛍光」、および「りん光」は言葉の意味が異なるので注意が必要です。従って、本来「蛍光寿命測定装置」と書くと、りん光寿命は測定できないように感じますが、現在市販されている蛍光寿命測定装置のほとんどは、蛍光とりん光の両方を測定することが可能です。よって発光寿命と記述するのが正確で、最近ではしばしば「発光寿命測定」という表記も多く見かけます(英語では昔から”emission lifetime” という表記が一般的)。

一方で、量子化学的に許容遷移である蛍光寿命と、禁制遷移であるりん光ではその時間スケールが大きく異なるために、詳細な測定手法は微妙に異なります。一般的に蛍光寿命は10−9 ~ 10−6 s のスケールであるのに対して、りん光は10−6 ~ 100 sスケールの寿命を示します。

つぎに「発光寿命」について説明します。発光寿命は当然、物質の発光種が「励起されてからどれくらいの時間存在するか」を意味しますが、実際には以下の(1) 式で定義されます。

 蛍光寿命測定装置図表1

F(t) は励起後t 秒後における発光強度であり、F0 は励起した直後(t = 0 s)における発光強度、τ が発光寿命を指します。t =τの時もF = 1/e F0 となり、励起直後の37%ほどの発光強度を有しています。すなわち、「発光寿命」=「完全に消光するまでの時間」ではありません。

 

蛍光寿命測定装置の原理

蛍光寿命測定装置の概略図を以下に示します。
蛍光寿命測定装置図表1

「励起光を照射し、試料からの発光を検出する」という点で、蛍光寿命測定装置の基本原理は多くの分光装置と変わりありません。特徴的な点として、励起光源には短い時間幅をもったパルスレーザーが用いられます。また、極めて短い時間スケールにおけるサンプルの発光寿命を精確に測定するためには、励起光の照射と光検出における時間制御が非常に重要になります。この時間制御の役割を担う機構が蛍光寿命測定装置には付属していますが、近年市販されている装置では一般的にTCSPC(Time Correlated Single Photon Counting: 時間相関単一光子計数法) モジュールが用いられています。TCSPCモジュールの詳細な原理は割愛ありますが、パルスレーザーの時間制御を行うとともに、試料からの発光を1光子計測することで、発光寿命を測定します。

 

蛍光寿命測定から分かること

発光寿命測定から得られる結果は普通、「時間(寿命)」と、「各時間における光子のカウント数」の二次元のデータになります。回帰直線を引くときの数値処理の都合上、縦軸のカウントは対数軸にとるのが一般的です。

蛍光寿命を測定すると当然、サンプルの蛍光寿命やりん光寿命を知ることができますが、それ以外にも発光性物質を評価する上で重要ないくつかの情報を得ることができます。主なものとしては以下の二点です。

  1. 試料中の発光種の数
  2. 放射速度定数と無放射速度定数

1.についてですが、一般的に発光寿命の値は物質の種類により固有の値を示します。温度や溶媒などの測定条件によって値は変化しますが、全く同じ条件で測定した同じサンプルは、必ず同じ発光寿命を示します。

そのため測定した試料中に単一の発光種しか存在しない場合、発光寿命のグラフは以下の図A のように直線的な減衰を与えます(純度の高い発光性化合物などがこれに当たります)。一方で、試料中の複数の化学種が、検出波長域における発光性を示す場合、発光寿命は図B のように曲線的に減衰します(複数の発光種からなる材料やデュアル発光体などはこれに当たります)。

いずれの場合も減衰グラフに対して回帰直(曲)線を引くことで、試料中の発光種の発光寿命を知ることができ、また複数成分の発光種がいる場合それらの割合を計算することができます。

次に2.について説明します。放射速度定数は量子化学における遷移確率に依存して決まる値で、発光性物質の発光特性を評価する上で、非常に重要な指標となります。しかしながら、発光寿命測定によって得られる寿命は、発光種が蛍光やりん光による放射過程による緩和に加え、分子振動による熱的緩和(すなわち、無放射過程)によって基底状態へと戻るまでの寿命を指します。ですから、発光寿命測定だけではこれらの値を算出することはできませんが、蛍光やりん光の発光量子収率を測定することで、以下の式から放射速度定数と無放射速度定数を求めることができます。これらの値は、励起状態における発光種の挙動を解釈する上で非常に重要な指標となり、分子構造やエネルギー移動機構と密接に関連しています。

発光寿命測定装置の選び方

近年市販されている装置であれば、装置ごとにそれほど大きな差はありません。検出感度の違いや、測定可能な時間、波長域が微妙に違ったりするので、測定したい条件に合っているかをまず確認することをおすすめします。また、発光寿命測定においては、励起光源にパルスレーザーを用いることから、励起波長を連続的に指定することはできません。あらかじめ準備されたパルス光源から選択することになります。従って、このパルスレーザー波長の選択肢も装置を選ぶ際には気を付けなければなりません。(多くのメーカーでは波長ごとにユニットを後から買い足すこともできます。)

それ以外の点では、測定可能な試料の形状や、温度可変測定などのオプション機能などによって装置全体の価格が変わってきます。

発光寿命測定装置の主要メーカーと販売価格

蛍光寿命測定装置

蛍光寿命測定装置の国内シェアのほとんどは「東京インスツルメンツ」「HORIBA」「浜松ホトニクス」の3社が占めています。

蛍光寿命測定装置の価格は850~1000万円程度が標準的で、分光装置の中では高価です。もちろん検出器や時間制御系の質、オプションの拡充度合いによって装置全体の価格は大きく変動します。購入を検討される場合は、ある程度予算を決めたのち、メーカーや代理店に相談することをお勧めします。

以下、国内メーカーのいくつかのモデルを紹介します。

  • HORIBA
  • 蛍光寿命測定装置 FluoroMax-TCSPC

HORIBAの蛍光寿命測定装置で、蛍光光度計に取り付けられる使用になっている。シグナルを選択的に検出することで高いS/N比が得られる。解析面でも優れており、最大5 成分の発光寿命減衰をフィッティングできる。

  • 東京インスツルメンツ 蛍光寿命システム

蛍光光度計やラマンスペクトル分光など、あらゆる光学系と組み合わせた特注品に対応している。検出器をはじめとした個々の部品から、システム全体まで予算に応じて組み立てることが可能。TCSPCを用いた高分解能の発光寿命測定が可能で、解析用ソフトウェアの質も良好。

  • 浜松ホトニクス C11367-24

サブナノ秒~ミリ秒スケールまで測定できる小型の蛍光寿命測定装置。測定部のほとんどのユニットが一体化されており、省スペースで、かつハード面の調整が容易である。スタンダードモデルでの機能は必要最低限に限られているが、操作性に優れており一般的な測定を行うには十分なクオリティ。

まとめ

発光寿命測定装置は高価ではありますが、発光性物質や発光材料の研究分野においては必須の装置です。メーカーにもよりますが、様々な光学系装置を組み合わせて使用することもできます。装置の性能向上につれて、関連研究分野における需要も高まりつつあります。

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ライター紹介
ライタープロフィール
井関 秀太

現役理系大学院生。光化学・超分子化学分野を中心に研究活動を展開中。

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