偽物の有名絵画も人類の起源も放射性炭素年代測定でわかる

偽物の有名絵画も人類の起源も放射性炭素年代測定でわかる

なぜ1,000年前のものと2,000年前のものの区別がつくのでしょうか。それは放射性炭素を測定しているからです。
放射性炭素を測定したことで、有名絵画が偽物であることが判明こともあります。
時代測定は進化していて、これまで21,000年前までしか測定できなかったものが、最近、26,000年前まで測定できるようになりました。この技術を使うと、人類の起源に迫ることができるといいます。
放射性炭素年代測定の仕組みと、測定に使われる機器について解説します。

放射性炭素年代測定とは

放射性炭素年代測定を理解するにはまず、炭素と放射性炭素について知っておかなければなりません。
炭素とは地球上に広く存在するもので、酸素や水素などの仲間です。そして炭素は、すべての生物の「材料」になっています。人間から水分を抜くと、その3分の2が炭素になります。

炭素には「ほとんど同じだけど少し違う」ものが15種類あります。その15種類は、炭素8から炭素22まで番号がつけられています。この15種類の炭素のことを、炭素同位体といいます。
炭素は15種類あるのですが、地球上でしっかり観測できるのは炭素12、炭素13、炭素14の3種類だけです。それ以外の炭素はすぐに消えてなくなってしまうのです。

炭素同位体のなかで最も多く存在するのは、炭素の99%を占める炭素12です。そして炭素の1%を占めるのが炭素13です。炭素12と炭素13で100%になってしまうのですが実はそうではなく、炭素14が、炭素12の1兆分の1だけ存在します。
計算式で表すとこうなります。

  • 炭素12:炭素13:炭素14=99:1:ごくわずか

そして炭素14は、特別に放射性同位体と呼ばれます。放射性とは「放射能を持つ」という意味で、放射能を持つということはつまり「放射線を放出する」という意味です。
炭素12と炭素13は放射線を出しません。

自然界にある炭素12、炭素13、炭素14(放射性同位体)の3つのうち、炭素14だけが宇宙から宇宙線によって地球に届きます。また炭素14だけが放射線を放出するので減ります(崩壊します)。炭素14の減り方のスピード(崩壊のスピード)は、5,730年で半分です。減ることを放射壊変といいます。
宇宙から供給される炭素14の量と、放射壊変で減る炭素14の量は大体同じなので、地球上の「炭素12:炭素13:炭素14=99:1:ごくわずか」という比率はほとんど変わりません。

炭素は地球上のさまざまな物質に含まれていて、炭素を含む物質を燃やすと(酸化すると)、二酸化炭素を発します。ダイヤモンドや木炭のなかの炭素は固体ですが、二酸化炭素の炭素は気体です。

炭素12と炭素13と炭素14はほとんど同じ性質なのですが、炭素12だけが少しだけ軽いという特徴があります。そのため気体の二酸化炭素のなかにも炭素12が含まれやすくなります。
植物は二酸化炭素を吸収して酸素を放出します。そして人間などの動物は、植物を食べることで二酸化炭素を体内に取り込みます。
つまり、動物も植物も、二酸化炭素を取り込むことで体内に炭素を取り込んでいるのです。

動物の体内の炭素も植物のなかの炭素も、生きているうちは自然界と同じ「炭素12:炭素13:炭素14=99:1:ごくわずか」という比率で存在しています。
なぜなら、炭素12と炭素13は減らないからです。そして炭素14は減りますが、生きていれば新たな炭素14が体内に入ってくるので、やはり総量は減らないのです。

ところが動物や植物が死ぬと、炭素12、13、14の供給は途絶えます。すると、動物と植物の体内の炭素12と炭素13は減りませんが、炭素14だけは減っていきます。
つまり死んだ動物や植物の体内の炭素は、時間が経つと

  • 炭素12:炭素13:炭素14=99:1:ごくごくごくわずか

という比率になるのです。

炭素14が「ごくわずか」から「ごくごくごくわずか」まで減る時間は、炭素14が減るスピード「5,730年で半分」から割り出すことができます。
すなわち動物や植物は命を失った瞬間から、炭素14という「死後時計」を体内に持つことになるのです。
それで大昔の動物や植物の体内の炭素14の量を調べれば、1,000年前のものなのか2,000年前のものなのかがはっきりとわかるのです。
これが放射性炭素年代測定の仕組みです。

炭素

放射性炭素年代測定で偽物の絵画がわかった

放射性炭素年代測定を使うと、1,000年前のものと2,000年前のものが区別できるだけでなく、1913年のものか1959年のものかの区別もつきます。

イタリア・ベネチアのペギー・グッゲンハイム美術館が所蔵する「形状のコントラスト(Contraste de Formes)」(フェルナン・レジェ(Fernand Leger)作)という絵画は、長年にわたって偽物ではないか、という疑いが持たれていました。

なかなか決定打が出なかったのですが、同美術館は2014年に、核物理研究所にこの絵画がいつごろ描かれたものなのか調査してもらうことにしました。
核物理研究所は、絵画のキャンバスの小さなかけらを譲り受け、放射性炭素年代測定を実施しました。
この絵画が本物であれば、1913年ごろと算出されなければならないのですが、結果は「少なくとも1959年以降」でした。1959年は、作者のフェルナン・レジェの死から4年後の年なので、この絵画は偽物であることが確定したのです。

キャンバスは植物の麻でできているので、植物内の炭素12、13、14比率を調べる要領で調査することができました。
つまり放射性炭素年代測定は、微量な動植物のかけらさえあれば、数十年単位で時代を測定できるのです。

絵画

2万6000年前までわかる

放射性炭素年代測定法による年代測定は、比較対象があるとより正確になります。例えば木の年輪や化石などは、放射性炭素年代測定法を使わなくても、生育状態や埋まっていた地層などから、大体いつごろのものか推定することができます。
そこで測定したい対象物のなかの炭素14の量と、その対象物の近くにあった化石の炭素14の量を測定して似た数字が出れば、対象物と化石が同じ年代にあったことがわかるわけです。

なぜこのような「比較」が重要になったかというと、1950年代から1960年代にかけて、実験や戦争で核兵器が使われたため、地球全体の空気中の放射線濃度が変わってしまったからです。放射性炭素年代測定法は炭素14の放射線の放出量を測ることでもあるので、空気中の放射線濃度が変わってしまうと炭素14の減るスピードだけでは正確な年代は測定できないと考える研究者が現れたのです。

木の年輪との比較では12,400年前までしか測定できなかったのですが、その後、海底に沈んでいる有孔虫という虫の化石やサンゴの化石を比較対象とすることで、21,000年前までさかのぼることができました。これが1998年のことです。

「21,000年前までの測定」の記録はしばらく破られなかったのですが、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所が、堆積物のなかのカブトムシの体の一部を比較対象とすることで、記録を「26,000年前までの測定」に伸ばしたのです。

新・放射性炭素年代測定法が、記録を5,000年分更新したことで、現代の人類とネアンデルタール人が同時期に生きていたかどうかがわかるそうです。

株式会社加速器分析研究所のAMS法とは

放射性炭素年代測定法を実行するには、加速器質量分析法(AMS法)という技術が必要なのですが、この技術は神奈川県川崎市の株式会社加速器分析研究所が持っています。
同社のAMS法の機器名は「IAA-AMS 3MVタンデム型加速器」といいます。

放射性炭素年代測定法は先ほど紹介したとおり、炭素14が減るスピード(崩壊するスピード)を測定するのですが、これには時間がかかります。
しかしAMS法は炭素14の数を直接測定するので、減る(崩壊する)過程を待つ必要がありません。そのため1回1時間ほどで測定が終わります。

炭素14の数を測るためには加工が必要になります。試料(対象物)のなかの炭素を二酸化炭素にして、その二酸化炭素を精製してグラファイトにします。
グラファイトとは、炭素からなる元素鉱物のことです。
このグラファイトを加速器にかけることで炭素同位体比(炭素12、13、14の比率)を割り出すのです。
測定料は税込62,640円です(*)。

*:http://www.iaa-ams.co.jp/faq3.html

まとめ~夢を砕くか、夢をつくるか

「歴史はロマンだ」という人もいれば、「歴史は事実ではなく物語だ」という人もいます。現代人は、昔に起きたことの一部しか知ることができないので、それ以外の大部分を物語化することで歴史をつくっています。
しかし放射性炭素年代測定法が今後ますます進化すれば、「昔の起きたことの一部」が広がります。それは、歴史のロマンや歴史の物語を否定することにもなりかねません。
過去がはっきりわかることは夢がある話ですが、夢を砕くことでもあるのです。

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ライター紹介
ライタープロフィール
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

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