ダイヤと量子で脳の磁気を測定して認知症を見つける

脳の磁気

東京工業大学の研究室が、ダイヤモンドを測定装置にする研究をしています。そしてその測定装置を認知症の検査機器にしようとしています。
つまり「ダイヤを使って認知症かどうかを判定する」わけです。
なぜ、ダイヤで認知症がわかるのかというと、「ダイヤと量子を使って脳の磁気を測定する」からです。
どういうことなのでしょうか。「認知症、脳、磁気、ダイヤ、量子、センサー」の6つの要素にわけて解説します。

東工大の波多野・岩崎研究所

「ダイヤと量子、脳の磁気」という、前衛小説のタイトルのような研究をしているのは、東京大の波多野・岩崎研究室です。
同研究所のテーマは「ダイヤモンド・エレクトロニクス」です。つまり宝石に使われているダイヤの特異な性質を使って、電機や医療や工業などの実益の分野で役立つツールを開発しているわけです。

脳が発する磁気を計測して認知症の診断をする方法は以前からあります。それは超伝導量子干渉計といいます。
ただこの装置はマイナス250度という極寒の温度と超伝導という特殊な現象を使うため大規模な装置が必要になります。しかもその装置は3億円もします。

波多野教授たちは「ダイヤ量子センサー」という装置をつかって、脳の磁気を測って認知症を診断しようとしています。
ダイヤは高価な素材ですが、それでも3億円をはるかに下回る価格で用意できますし、しかも波多野・岩崎研究室では自前で人工ダイヤをつくっています。
そして装置は簡便で、室温で操作できます。

認知症の検査に使えるかもしれないダイヤ量子センサーの仕組みを理解するには、「認知症と脳」「脳と電気」「電気と磁気」そして「量子」についての基礎知識が必要です。

認知症とは脳の病気である

認知症は病気の名前ではなく症状の名称です。例えば、アルツハイマー病や脳血管障害などの病気が引き金となって認知症を引き起こします。
ただそれは医療関係者の理解であって、一般の人は「認知症は脳の病気」と理解して問題ないでしょう。

認知症の患者さんは、妄想や徘徊、不潔行為、暴言、暴力といった行動を起こします。これは脳に異常が起きたため理性や認知機能が働かなくなって起きているのであって、風邪を引くと熱が出るのと同じです。
つまり、暴言や暴力を働くような人でない人でも、認知症によってそのようになってしまうのです。それで認知症は「人格を破壊する病気」といわれることもあります。

認知症にはいまだに特効薬がありません。また、なぜアルツハイマー病が発症するのかもよくわかっていません。
なぜこれほど謎につつまれているのかというと、脳の病気だからです。
胃や大腸の病気であれば、内視鏡で「目視」することができます。そのため、患部の様子や薬に効き目を確認できます。またいざとなれば、電気メスでお腹を切って胃や腸を直接触って確認することもできます。

しかし脳はとても繊細な臓器なので、そのような「手荒な真似」ができません。
もちろん胃がんや大腸がんの手術をする外科医は細心の注意を払って、臓器を傷つけないように丁寧に取り扱っていますが、胃や大腸には切ったり縫ったりすることができます。脳に対してはそのような処置は厳禁です。

また、脳の働きは電気信号で制御されているので、仮に脳神経外科医が頭蓋骨を割って脳を肉眼で見ても、起きていることを目視できません。

そこで認知症の研究者たちは、脳の電気が引き起こす磁気を測定しようとしているのです。

脳は電気で情報をやりとりしている

「脳は電気信号で制御されている」と紹介しましたが、これは比喩的な表現ではなく、本当に脳内に電気が流れているのです。
脳は体の各器官や各臓器からさまざまな情報を集め、その情報から判断を下し、各器官や各臓器に命令を出します。情報収集と命令伝達を行うのが神経です。したがって神経は脳から出ています。
情報と命令は、電気信号に変換され脳と器官・臓器の間を行ったり来たりしています。

「情報や命令を電気信号に変換する」と聞くと奇妙に聞こえるかもしれませんが、電話やインターネットも情報を電気信号に変換してやり取りしています。
したがって情報と電気の関係は、それほど珍しいことではありません。

電気は磁気を発生させる

電気は磁気を発生させます。
電気は、原子のなかの電子が飛び出して移動して起きる現象です。
磁気とは、磁石の性質を持つ状態のことをいいます。磁石にはN極とS極があり、異なる極はくっつこうとして、同じ極は離れようとします。
電気が起きると、磁気が生まれます。また磁気に変化が起きると、電気が起きます。

さて、ここまで、認知症、脳、電気、磁気が登場しました。ここまでの説明を短縮すると、次のようになります。

●認知症を発症すると磁気に異変が起きる

つまり、認知症が起きているということは脳に異常起きているはずなので、電気の流れに異常が見られます。電気の異常は磁気の異常となって現れます。
したがって上記のように短縮することができるわけです。

ここでひとつ疑問がわくと思います。
それは、波多野・岩崎研究室は脳が発する磁気を捕らえようとしていますが、それなら直接電気は測定すればいいのではないか、という疑問です。
しかし、例えば電線に電気が流れているとき、その電気の流れを確認するには、計測器の先端を電線に接触させなければなりません。
つまり、脳の電気を測定しようとすると、脳に測定器の先端を刺さなければならなくなります。それはリスクが大きすぎます。
一方の磁気は、発生源から少し離れた場所でも測定できます。したがって「電気の異常=磁気の異常」であるなら、磁気を測定したほうが安全なのです。

さていよいよ、「なぜダイヤで脳の磁気を測定できるのか」の説明に入るのですが、その前に量子について知っておかなければなりません。
しかし量子の初歩的な知識もそれほど難しいものではないので、安心してください。

量子

ダイヤを量子センサーに改造する

波多野・岩崎研究室が行っている研究は、ダイヤを量子センサーにすることです。センサーとは異常を発見する機器のことです。つまり、ダイヤで異常発見器をつくろうとしているのです。
そこに量子という「変わったもの」が加わってきます。

量子とは

量子とは「ものすごく小さい粒のようなもの」と理解してください。「粒である」と断言せず「粒のようなもの」と表記しているのには理由がありますので、のちほど解説します。

物質を次々破壊していくと、最終的に「これ以上割れない」状態にたどり着きます。それは原子という粒です。原子までは「粒である」と断言できます。

原子はかつて、物質の最小単位と思われていました。しかし原子には、原子核と電子でできていることがわかりました。また原子核には、陽子と中性子でできています。中性子はさらに、クォークでできています。
では、物質の最小単位はクォークかというと、物理の世界では確かにそうなのですが、しかし、原子核や電子や陽子や中性子やクォーク(以下、原子核や電子など)は「普通の物質」とはいえないのです。

それというのも、原子までは物理の法則にしたがって動きます。上にあれば、重力にしたがって下に落ちます。
ところが原子核や電子などは物理法則とは関係なく動いたりしているのです。原子核や電子のことを合わせて量子といい、量子は量子力学の法則にしたがって動いているのです。

そして量子は「粒ではない」と説明することもできます。
原子は粒なのに、その原子を細分化した量子が「粒でない」というのは不思議な印象を受けるでしょう。
しかし量子が引き起こす現象は、仮に量子に大きさがないとしても説明できてしまうのです。ただ、仮に量子が粒だとしても、それはそれで説明できてしまうのです。

ダイヤを使った量子センサー

なぜ認知症の人の脳の磁気を測定するのに量子が登場するのかというと、脳で起きている電気は極々微量だからです。普通の磁気測定器では針はピクリとも動きません。
つまり認知症による磁気の異常をキャッチするには、極々微量の磁気の変化に影響されるものでなければなりません。それが量子なのです。

ダイヤは炭素原子でできています。波多野・岩崎研究室は、ダイヤのなかから炭素原子を2つ取り除き、1つの「空席」に窒素原子を置き、1つの空席を空席のままにしておくと、極々微量な磁気にも影響を受けやすくなることを発見しました。
炭素原子の集まりのなかの窒素と空席の組み合わせが起こす現象は、量子力学の領域になります。
そしてこれが、ダイヤを使った量子センサーです。

ティッシュは風センサー?

センサーは、異常や変わったことが起きたときに反応するもののことをいいます。
例えば、ティッシュを1枚机の上に置けば、それは風のセンサーになります。風がないとティッシュは動かず、微量でも風が起きればティッシュが動くからです。
ただティッシュの場合、水をこぼしても変化してしまうので、風専用のセンサーにはなりません。

しかしダイヤを使った量子センサーは、極々微量な磁気だけに反応するので、脳が発する磁気のセンサーに使うことができるのです。

ダイヤ量子センサーで磁気を捕らえて脳を見える化する

脳が発した磁気の変化でダイヤ量子センサーが動くことがわかれば、あとはダイヤ量子センサーの変化を光や電波で読み取ればいいのです。
認知症の人の脳が発する磁気と正常な人の脳が発する磁気を比較することで、「ダイヤ量子センサーがこういう数値を示したら認知症といえる」と診断することができます。

まとめ~見えないものを見る技術

胃がんや大腸がんの手術の様子を見たことがある人は「外科医は内臓をあんなにしっかり触るものなのか」と感じなかったでしょうか。また白内障の手術は、眼球に器具を接触させ、濁った水晶体を取り出し、眼内レンズを挿入します。
こうした直接手を下すことができる臓器の医療は、進化が早い傾向にあります。
しかし脳は、直接見るには頭蓋骨を割らなければなりませんし、ダイレクトに器具や手で触らないほうがよい臓器です。例えば脳腫瘍を取り除くとき、1ミリのずれで重大な後遺症を引き起こすことがあります。それで脳神経外科領域の難易度が高い手術をする医師の手のことをゴッドハンドと呼ぶのです。

したがってダイヤ量子センサーのような、見えないものを測定したり、見えなくても測定できたりできるツールは、脳の測定に向いているのです。

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ライター紹介
ライタープロフィール
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

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