「飲酒運転をさせない」アルコール測定器の仕組みと開発ドラマ

飲酒運転

バスやトラックなどの運転手の飲酒の有無をチェックする「業務用アルコール濃度測定器」には、高度で特殊な技術が必要です。それは、呼気という「空気のようなもの」のなかのわずかなアルコールを的確に、かつ正確にとらえないとならないからです。

的確にとらえないと飲酒運転を許すことになってしまいますし、正確にとらえないとドライバーに濡れ衣を着せることになりかねません。
この責任重大な機器に使われている知られざる技術を解説します。

さらに、業務用アルコール濃度測定器の国内トップメーカーは、静岡県富士市の東海電子株式会社という会社なのですが、そのドラマチックな開発秘話も紹介します。

東海電子の2種類のアルコール測定器

東海電子の業務用アルコール濃度測定器には、管理システム機能を備えたALC-PROⅡ(税別306,000円~)と、アルコール検知によって自動車のエンジンをかけられないようにするアルコールインターロック装置ALC-ZERO(128,000円~)の2種類があります。
いずれもドライバーが息を吹きかけるだけで測定できます。
それぞれの特徴を紹介します。

管理システムを備えたALC-PROⅡ

ALC-PROⅡは、バス会社やタクシー会社などの事務所に設置して、運転業務に入る前のドライバーの呼気をチェックするシステムです。
ALC-PROⅡは、小型レジスターのような「本体」と、呼気を吹き込む「センサーユニット」で構成されています。ドライバーたちは自分のマウスピースを持っていて、それをセンサーユニットに接続し、呼気を4秒吹きかけます。

ALC-PROⅡを「システム」と呼んでいるのは、測定したアルコール濃度を自動でパソコンに保存していくからです。また、支社や営業所がある会社であれば、すべての拠点の測定を本社で一元管理できます。
さらに付属のUSBカメラを本体に装着すれば、測定をした人の顔写真を撮影・保存することができます。これにより「代理測定」や「記録の改ざん」といった不正を予防できます。
そしてオプションの「免許証リーダー」を使えば、ドライバーが免許証を装置にかざすだけで測定を開始でき、データが保存されます。これも不正防止に貢献します。

アルコールインターロック装置ALC-ZERO

アルコールインターロック装置ALC-ZEROは、トラックやバスなどに装着するタイプです。ドライバーが装置に息を吹き込み、アルコールが検知されなかったときだけ、エンジンをかけることができます。
アルコールが検知されると警告音が鳴り、エンジンがロックされ始動できなくなります。

飲酒

呼気のなかのアルコールを測定する4つの方法

アルコール濃度測定器の開発で課題になったのが、「アルコールが含まれているときに検知し、アルコールが含まれていないときに検知しない」という動作を適切に実行させることでした。
アルコールを検知する仕組みのなかには、タバコの煙やコーヒーでも反応してしまうものがあります。また、人によっては呼気のなかにケトン体という物質が含まれていて、それがアルコールセンサーに反応してしまうことがあります。
もちろん、タバコやコーヒーやケトン体を「アルコール」と検知してしまっては、測定器としては使えません。

東海電子はこうした課題を解決して、日本製の業務用アルコール濃度測定器として初めて、アメリカ交通省(DOT)の認定を受けています。
アルコール濃度測定の方法は、次の4種類があります。

  • 半導体方式
  • 燃料電池方式
  • 非拡散赤外線呼吸方式
  • 化学反応方式

東海電子では燃料電池方式を採用していますが、本稿では4つすべての原理を紹介します。

半導体方式

半導体方式は、酸化スズが持つ「電気が流れにくい性質」を利用しています。
アルコールなどを含まないきれいな空気中では、酸化スズの表面の酸素が電子をとらえてしまうため、電気が流れにくくなります。
しかしアルコール分などで空気が汚れると、酸化スズの表面の酸素が空気中のアルコール分などをとらえるため、電子をとらえなくなり電気が流れやすくなります。

そのため、半導体方式の機器に酒を飲んだ人が呼気を吹きかけると電気が流れやすくなり、「アルコールが含まれている」ことがわかるわけです。
半導体方式は仕組みがシンプルなため、検知スピードが速くコストも安いのですが、ケトン体などアルコール以外の成分も検知してしまう欠点があり、精度が高い方式ではありません。

燃料電池方式

アルコールセンサーなのに「燃料電池」という名称がついているのは、燃料電池方式が発電の仕組みを応用しているからです。
燃料電池方式は、ダイレクトエタノール形燃料電池センサーというセンサーが使われています。このセンサーにアルコールの一種であるエタノールを含む呼気吹き込むと、エタノールが水素イオンと電子に分離して電気が発生します。つまり、アルコールが燃料になって発電するのです。
したがって、電気が発生したら「呼気にアルコールが含まれている」ことがわかります。
東海電子のアルコール濃度測定器は、この燃料電池方式を使っています。

非拡散赤外線呼吸方式

すべての気体分子は、固有の赤外線吸収帯域(波長)を持っています。非拡散赤外線呼吸方式では、気体の波長を測定することで気体分子がアルコールかどうかを判定します。
ただこの方式はコストが高いうえに精度が高くなく、タバコで反応してしまう欠点もあります。

化学反応方式

化学反応方式は、重クロム酸塩という物質とアルコールが接触したときに起きる化学反応を使った検知方法です。
重クロム酸塩はアルコールによって還元反応を起こし、そのとき、元の赤褐色から緑色に変化します。緑色になったときに「呼気にアルコールが含まれている」と判断できます。
化学反応方式はコスト面では優れているのですが、反応を待つまでの時間が長かったり、色から判断するため精度が高くないという欠点があります。

下請け脱却と社会貢献を両立。杉本社長の「強い思い」

東海電子は2003年からアルコール濃度測定器を販売し、これまで9万台を売ってきました。同社は元々、時計部品をつくる下請け企業で、最終製品をつくったのはアルコール濃度測定器が初めてでした。そこには東海電子の杉本一成社長の強い思いがありました。

下請け企業の仕事量は発注企業の意向によって決まります。したがって自社の努力だけでは、安定した経営をすることはできません。杉本社長は資金繰りで「四苦八苦したことは1度や2度ではない」と、日経ビジネスの取材に回答しています。

そこで、下請けから脱却しようと自社製品の開発に乗り出したのです。
同社の本社は静岡県富士市にありますが、自社製品を開発するために東京に開発事業本部をつくり、技術者を新たに採用しました。ところがこのときはまだ、何をつくるか決めていませんでした。

杉本社長は1999年に、飲酒運転のトラックが乗用車に追突して子供2人の命が奪われるというニュースをみました。そして、このような惨劇を繰り返してはならないと考えてアルコール濃度測定器をつくることにしたのです。
当時すでに、他社がプロドライバー用のアルコール濃度測定器をつくっていました。しかしそれらの機器では記録が残らなかったり、代理測定が容易に行えたりと、欠陥がありました。杉本社長は、飲酒の有無を厳格にチェックできるシステムの需要は必ずあると考えたのです。

しかし開発は失敗の連続でした。
ようやく完成したアルコール濃度測定器をバス会社に試験導入したものの、冬になると呼気によって測定器内に結露が起きてしまいました。それを解消しようとヒーターを取りつけたのですが、今度はヒーターが発するにおいにセンサーが反応して誤検知をしてしまいました。
開発費は1億円にのぼり、ほかの製品の利益で「食いつないで」きましたが、限界が近づいていました。廃業も考えたそうです。
そのぎりぎりの状態で改良版が完成し、経営が軌道に乗りました。

杉本社長は2017年から、社員に飲酒運転防止インストラクターの資格を取得させ、運送会社に派遣してドライバーたちに講義をするボランティアを始めました。
最近はジェット旅客機パイロットによる飲酒問題を受け、航空業界からも講義の要請があるそうです。

杉本社長は医療分野への進出も模索しています。
医療系の大学などが、呼気に含まれる成分から健康状態をチェックする研究をしていて、東海電子の呼気をチェックする技術が応用できそうなのです。呼気だけでがんを早期発見できる機器の開発を進めています。

呑んだら乗るな!

まとめ~測って社会貢献

運転とアルコールの問題がなかなか解決しないのは、酒の誘惑という「悪魔」が存在するからです。飲酒運転は人々の良心に期待するだけでは撲滅できず、社会的な仕組みが必要です。
東海電子のアルコール濃度測定器は、精度の高さもさることながら不正をさせない仕組みが秀逸であるといえます。

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ライター紹介
ライタープロフィール
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

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