【環境省の測定】不眠や吐き気を引き起こす低周波音はこう測る

【環境省の測定】不眠や吐き気を引き起こす低周波音はこう測る

環境省にとって「測定」は、環境への影響のある・なしを決める重要なものさしです。測定結果によっては経済活動を規制することになるので、環境省の測定は正確かつ厳正かつ公正でなければなりません。

そのような環境省はさまざまなものを測っていますが、今回は低周波音の測定を紹介します。
音の環境被害といえば、大きな音の騒音がよく知られていますが、低周波音は小さな音ながら大きな迷惑をかけています。低周波音は聴こえないことすらありますが、その音源の近隣住民が不眠や吐き気を引き起こすこともあり、環境省の規制対象になっています。

低周波音が「どのような問題」を引き起こし、環境省が「どのように測定」しているのかみていきます。

低周波音とは

音 イメージ

環境省は低周波音について「苦情が増えている」ととらえていて、強く警戒しています。単純な大きな音による騒音であれば、音源や原因をつきとめることは難しくありませんが、低周波音は発生メカニズムが難解なため、被害を受けている人の不安は膨らみます。
そこでまずは低周波音の基礎知識をおさらいしておきましょう。

音には大きさと高さがあり、低周波音は高さの問題

音には大きさと高さがあります。大きな音とは、人の耳の奥にある鼓膜への圧力が大きい音のことです。高い音とは、鼓膜を振動させる回数が多い音のことです。
そして低周波音は、音の高さが低い音のことです。1秒間に振動する回数を周波数といい、低周波音は1~100Hzの周波数が小さい音のことです。そのうち1~20Hzの低周波音のことを特別に超低周波音といい、人の耳では聴こえないこともあります。

人の声、工場、風力発電などに低周波音が含まれている

音を出す音源は、単一の音を出しているわけではありません。1つの音源から、大きくて低い音や小さくて高い音など、いくつかの音が出ています。
そして低周波音もいろいろな音源に含まれています。例えば人の会話や滝の音にも低周波音は含まれています。つまり、すべての低周波音が迷惑になるわけではありません。
問題になる低周波音は次のようなものです。
・工場の送風機や真空ポンプ、プレス機械など
・高速道路の高架橋や新幹線のトンネル、ヘリコプター、船舶エンジンなど
・変圧器やボイラー、クーラーの室外機など
・風力発電の風車など
しかしこれらの音源も、必ず問題になるわけではなく、問題にならないことがあります。それが低周波音問題の解決を難しくしています。同じ音源でも健康被害を引き起こすことも起こさないこともあるので、一様な規制をかけることができないのです。
低周波音問題は特定の条件が重なったときに小規模に発生するため、音源の特定がなかなかできないことすらあります。
そこで次に、低周波音の問題についてみていきます。

低周波音は何が問題なのか

フェリー 騒音 イメージ

低周波音が問題になるのは、人の健康を害するときです。環境省が把握している低周波音による健康被害を紹介します。

灯油ボイラーが安眠妨害した事例

ある家庭で不快な音によって眠れない状況が続きました。調査したところ、音源は近隣住宅の家庭用「灯油」ボイラーであることがわかりました。周波数50Hzと100Hzの2種類の低周波音が出ていました。
「ガス」ボイラーに変更して、吸音材を貼り付けたコンクリートブロック塀を設置したことで解決しました。

老人医療施設の屋上の大型空調室外機の事例

老人医療施設の周辺住民から不快な音や睡眠妨害の苦情が寄せられました。音源は、老人医療施設の屋上に設置してあった、大型の空調室外機でした。

老人医療施設側と苦情者側の双方が、音の調査を実施しました。その際、空調室外機を稼働したときと稼働しないときで、苦情者側の苦痛がどのように変化するかも調べました。
その結果、やはり50Hzと100Hzの低周波音が観測されました。さらに、空調室外機を稼働させているときに苦痛が起き、稼働させていないときに苦痛が起きないことも確認されました。
老人医療施設の周囲に干渉型の壁を設置することで苦情はなくなりました。

この事例のポイントは、空調室外機の稼働と周辺住民の苦痛の因果関係を特定したことです。稼働時と非稼働時で被害状況が変わるかどうかの確認は、低周波音調査のときにほぼ必ず行われます。

港近くの住宅の振動の原因がフェリーだった事例

低周波音の被害には、住宅内部の「がたつき」もあります。低周波音が窓ガラスや襖(ふすま)などを揺らして、住民が不快に感じることがあるのです。

港近くの住宅で、早朝の決まった時間帯に突然、襖や人形ケースががたがた揺れ出すという苦情が寄せられました。がたがた揺れ出すときに住宅近くを大型トラックが通った形跡もありませんし、住民にはっきりした音が聴こえるわけでもありませんでした。

調査したところ、確かに低周波音が観測されましたが、すぐには音源がわかりませんでした。

音源を詳しい分析にかけたところ、ディーゼルエンジンの音に似ていることから、港近くを早朝に航行するフェリーが音源であると特定されました。フェリーのディーゼルエンジンの排気煙突に低周波音用の消音機を装着して問題は解決しました。

訴訟になることもある

環境省が把握している以外にも、低周波音が問題になることがあります。家庭用の電気給湯器「エコキュート」は、価格が安い夜間の電力を使って湯をつくり、昼間にその湯を使う設備です。
ある住宅で、夜中に「ごーん」という音がすることに気がつきました。音はその後も続き、その住宅の夫婦は不眠や吐き気をもよおすようになり、調査しました。その結果、隣家が最近エコキュートを設置したことがわかりました。
ところが隣家とエコキュートのメーカーは、対象となるエコキュートが発生している音は、健康被害を引き起こすレベルではないとして、対策を講じませんでした。そこで「ごーん」という音に悩まされていた夫婦は、隣家とメーカーを相手取り、エコキュートの稼働差し止めと損害賠償を求めて提訴しました。このように低周波音を巡るトラブルが訴訟に進んでしまうことは珍しいことではないそうです。

環境省の低周波音対策とは

環境省は「低周波音の測定方法に関するマニュアル」で、地方自治体が低周波音トラブルを解決するときの対処方法を定めています。
それによると、以下の7ステップで進めていくことになります。

  1. 苦情者から発生状況を聞き取り調査する
  2. 測定計画を立案する。測定計画内容は、測定量、測定点、測定時刻、測定機器、人員配置、スケジュールなど
  3. 予備調査を経て測定計画の修正
  4. 実際の測定
  5. データ処理、解析、レポートの作成

測定計画や予備調査が必要なのは、やみくもに測定するだけでは、低周波音をとらえられないからです。低周波音は「微妙な存在」なので、測定する時刻や使用する測定機器を適切に選定しないと正確に測ることができないのです。

低周波音をどのようにして測定しているのか

それでは次に、環境省が実際にどのように低周波音を測定しているのかみていきましょう。

どこで測定するか

低周波音の測定は、どこで測定するかが重要になります。人の耳で聴こえないこともあるくらいなので、風が吹いていると測定値に影響することもあるからです。
屋外で測定するときは、音の反射や遮蔽(しゃへい、さえぎり)が起きやすい場所は避けます。
苦情者の住宅内で測定するときは、被害を受けた場所と被害を受けない場所の2カ所以上で測定します。こうすることで、低周波音と健康被害の因果関係の有無がわかります。

「周波数」と「G特性音圧レベル」と「騒音レベル」と「振動レベル」を測る

低周波音問題が発生したときに測定するのは、「周波数」「G特性音圧レベル」「騒音レベル」「振動レベル」です。
それぞれの数値の意味を紹介します。
なぜ「周波数」を調べるのかというと、音は大きさだけでなく周波数でも人を不快にさせるからです。低周波音は無音か小さな音ですが、その独特の周波数によって健康被害を引き起こします。
周波数を測定すると、音源の中の複数の音から、低周波音があるかどうかがわかります。
「G特性音圧レベル」とは、1~20Hzの超低周波音が人にどのように感じるか、という数値です。超低周波音は人の耳では音が聴こえないのに窓ガラスや置物ががたがたする現象や睡眠妨害といった問題を引き起こします。
G特性音圧レベルの測定では、120dBは「超低周波音を非常に強く感じる」、100dBは「超低周波音を感じ始める、睡眠への影響が現れ始める」、92dBは「低周波音による心身の苦情が出る」などと判定します。
「騒音レベル」は音の大きさで表します。例えば、自動車のクラクションを2メートルの距離で測定すると大体110dBですが、この数値は「うるささ:きわめてうるさい」「身体への影響:聴覚機能に異常をきたす」と評価します。低周波音問題では音の大きさも伴うことがあるので騒音レベルも計測するのです。
「振動レベル」は音ではなく揺れを示す数値ですが、単位は騒音レベルと同じくdBです。なぜなら音も揺れも周波数で表せるからです。
振動レベルは、「振動加速度レベルを振動感覚補正特性で補正したもの」と定義されますが、要するに人が感じる揺れの強さを数値で表したものです。
例えば振動レベル110dBは、地震でいうと震度7の揺れで「揺れのために自分の意思では行動できない」と表現されます。先述したとおり、低周波音問題では住宅の窓ガラスや置物など揺れも発生するので、振動レベルを計測する必要があるのです。

まとめ~聴こえない迷惑音を測定する難しさ

低周波音問題は「意外」が多いという特徴があります。「まさかこの機械がそんな音を出しているとは知らなかった」ということもありますし、「まさかこの音源があんな場所で被害を出しているとは知らなかった」ということもあります。
また、同じ低周波音を聴いていても、苦痛に感じる人と平気な人がいるという意外性もあります。
そのため「犯人探し」が難しいうえに、音源が特定できてもそれが規制するレベルかどうか判定することも簡単ではありません。低周波音を抑制するには、機械を止めるか音を遮る壁などを設置するしかなくコストがかかります。住民の健康にかかわるだけに、低周波音問題を扱う環境省や地方自治体としては、厳格な測定が必要になるというわけです。

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ライター紹介
ライタープロフィール
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

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