【環境省の測定2】有害大気汚染物質はこう測る

大気汚染

「大気汚染」と聞くと、中国などの新興国を思い浮かべるかもしれませんが、日本もほんの数十年前まで空気の尋常ではない汚れに悩まされていました。
では、先進国は大気汚染問題を解決したのかというと、そうでもありません。例えばドイツのフォルクスワーゲンは、排ガス規制を逃れるため不正行為を働きました。世界の一流自動車メーカーにとっても、いまだに「空気をきれいにすること」は難題なのです。
また最近は、自動車の排ガスより、生活用品のほうが空気を汚しているという研究結果も発表されました。
そのため、日本の環境省も常に有害大気汚染物質には目を光らせています。しかし「相手」は空間を自由に漂っているため、一筋縄にはいきません。空気の測定には科学の力、特に化学の力が欠かせません。

生活用品のほうが危険? 揮発性有機化合物(VOCs)とは

日本経済新聞電子版は2018年2月に、「自動車だけでない 生活用品が大気汚染の原因に」という記事を掲載しました。
それによるとアメリカの海洋大気局という機関が、生活用品に含まれる揮発性有機化合物(VOCs)が太陽光によって化学反応を引き起こして空気を汚染している、と発表したのです。しかも生活用品による大気汚染は、自動車の排ガスによる汚染より深刻かもしれない、というのです。

排ガス規制は進んだが生活用品は常に身近にあり続ける

排ガスによる大気汚染
自動車の排ガスというと、窒素化合物(NOx)や浮遊粒子状物質(SPM)などが知られていますが、これらは各国政府が強い規制をかけ、自動車メーカーも必死に開発したので、だいぶ抑えられています。
ところが米海洋大気局の調査で、生活用品から大気中に放出されるVOCsの量が、米環境保護庁が推定していた量の3倍に達していたケースがみつかったのです。
また、大気に含まれる危険な粒子のうち、42%が生活用品から放出されていたのに対し、自動車の排ガスやガソリンスタンドなどからの放出量は39%でした。
行政の予想を上回る量のVOCsが家庭に充満しているかもしれないのです。

さらに自動車燃料に含まれるVOCsは燃やされてしまいますが、生活用品に含まれるVOCsは生活の場に漂うことになります。
この研究を行った専門家は「香水は人々が好んで嗅ぐが、ガソリンの香りを楽しむ人はいない」と、ユニークな表現で注意喚起しています。これは、自動車の排ガスだけに敏感になるのではなく、香水などの生活用品にも警戒しましょう、という意味です。

VOCsは深刻な病気をもたらす

VOCsとは、揮発性という名称が示すとおり、空気中に漂う有機化合物のことです。蒸発しやすい有機化合物、といったイメージです。
VOCsは塗料、印刷用のインク、接着剤、洗浄剤、ガソリン、シンナーなどに含まれています。VOCsは総称であり具体的な物質としては、ベンゼン、トリクロロエチレン、ラトラクロロエチレンなどがあります。

ベンゼンはガソリンに含まれていますが、テトラクロロエチレンはドライクリーニングで使われていて、より日常生活に密着しているといえます。
トリクロロエチレンは金属洗浄などで使われます。
いずれもシックハウス症候群や化学物質過敏症、アレルギー性気管支喘息、アトピー性皮膚炎といった現代病を引き起こすとされています。さらに肝機能障害や腎不全など命に関わる病気とも深い関係があるとされています。
そのため環境省もVOCsの規制には長年取り組んでいます。

環境省の有害大気汚染物質対策とは

環境省の排ガス規制
有害大気汚染物質は大気汚染防止法で、「継続的に摂取すると人の健康を損なうおそれがあり、大気の汚染原因になるもの」と定義されています。
有害大気汚染物質に該当する恐れがある物質は現在248種類が指定されています。
この248種類のうち23種類が、「健康リスクがある程度高い物質」と考えられ「優先取組物質」に選定されています。
さらに先ほど紹介したVOCs(揮発性有機化合物)のなかのベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンは、「人の健康への被害を防止するために排出または飛散を早急に要求しなければならないもの」として「指定物質」に指定されています。

つまり、体に悪い有害大気汚染物質は248種あり、そのうち23種は危険度が高く、そのうち3種類は特に危険度が高いということになります。

環境省が示す有害大気汚染物質の測定方法

環境省は248種類の有害大気汚染物質のすべてについて測定方法を定めています。
248の物質は、次の10種類に分類されます。

  • ・ベンゼン等揮発性有機化合物
  • ・高極性揮発性有機化合物
  • ・ナフタレン等揮発性及び半揮発性有機化合物
  • ・ベンゾ[a]ピレン
  • ・多環芳香族炭化水素
  • ・ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド
  • ・酸化エチレン及び酸化プロピレン
  • ・重金属類
  • ・水銀及びその化合物
  • ・ほう素化合物
  • それぞれの物質で測定方法が異なります。なぜ測定方法が異なるかというと、物質の特性が異なるからです。例えば、木にはりつて鳴いているセミを捕る網も、海を回遊するイワシを捕る網も同じ網ですが、形状も大きさも扱い方も異なるようなものです。
    測定機器も、質量分析計、水素炎イオン化検出器、電子捕獲検出器、熱イオン化検出器、電気伝導度検出器、光イオン化検出器など多種多様です。

    紙幅の関係上すべてを紹介することができないので、ここでは、特に危険度が高い指定物質のベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンを含むベンゼン等揮発性有機化合物の測定方法を紹介します。
    なおVOCsは「揮発性有機化合物」の略称ですが、環境省は「ベンゼン等揮発性有機化合物」のこともVOCsと呼んでいるので、ここでもそれにならいます。

    容器採取法と固定吸着法とガスクロマトグラフ質量分析法

    大気中の物質を測定するには、まずは物質をとらえなければなりません。そこで環境省は、VOCsの試料を採取する方法として「容器採取法」または「固定吸着法」を指定しています。またVOCsの測定方法は「ガスクロマトグラフ質量分析法」に定めています。

    <容器採取法>
    容器採取法とは、試料を採取して容器に入れる手法です。容器採取法はさらに、減圧して採取する減圧採取法と、加圧する加圧採取法があります。
    容器採取法は、複数物質を同時に採取でき、さらに採取した試料を複数回分析できるというメリットがあります。

    <固定吸着法>
    固定吸着法のうち加熱脱着法は、吸着剤で試料を採取した後に、加熱して試料を回収する方法です。この方法は低濃度の物質を採取するのに適していますが、熱分解してしまう物質には使うことができません。
    固定吸着法のうち溶媒抽出法は、吸着剤を使って試料を採取するのは加熱脱着法と同じですが、回収するときに溶媒を使う点が異なります。複数物質を同時に採取でき、採取した物質を複数回分析できるメリットがあります。ただ、溶媒によって採取した物質の濃度が薄まってしまうデメリットがあります。

    <ガスクロマトグラフ質量分析法>
    ガスクロマトグラフ質量分析法は長い名称ですが、前半部分のガスクロマトグラフと後半部分の質量分析法にわけて考えると理解しやすいでしょう。
    ガスクロマトグラフとは、空気中の複数の物質を分離する方法です。気体中の物質が樹脂などに吸着するとき、それぞれの物質の吸着方法が異なるので、物質ごとに分けることができるというわけです。
    質量分析法とは、物質の重さ(質量)から分析する方法です。
    つまりガスクロマトグラフ質量分析法を使えば、空気中の複数の有害大気汚染物質をガスクロマトグラフによって1つずつ分離して採取し、その1つひとつの成分ごとに質量分析法で測定することができるのです。
    ガスクロマトグラフ質量分析法には、分子量が小さく、揮発性の高い成分でも分析できる特長があります。また微量の有機成分の定性分析と定量分析に向いています。
    定性分析とは物質の化学特性を調べることで、定量分析は試料のなかの成分ごとの量を測ることです。

    まとめ~必要悪という皮肉

    大気は空間を自由に移動するので、大気汚染は原因の特定は難航します。しかも交通事故のように瞬時に被害を拡大させるのではなく、長い時間をかけて人の健康を害することが珍しくないので、原因の特定はさらに難しくなります。
    有害大気汚染物質は自動車の排ガスや生活用品に含まれているため、皮肉なことに「人々の生活に欠かせないもの」ともいえるのです。有害大気汚染物質を完全に取り除こうとすると経済が停滞し快適な生活を送ることができなくなってしまうのです。
    環境省が有害大気汚染物質の分析や測定を厳格に行っているのは、人の健康への影響と経済活動のバランスを取る必要があるからなのです。

    資料
    [FT]自動車だけでない 生活用品が大気汚染の原因に(日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26997660W8A210C1000000/
    フォルクスワーゲンの不正問題って?(朝日新聞)
    https://www.asagaku.com/chugaku/newswatcher/4725.html
    有害大気汚染物質測定方法マニュアル(環境省)
    http://www.env.go.jp/air/osen/manual2/
    http://www.env.go.jp/air/osen/manual2/pdf-rev1103/00_cover.pdf
    用語解説 : 有害大気汚染物質(横浜市)
    http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/mamoru/kanshi/worda/haps.html
    大気汚染防止法の概要(環境省)
    http://www.env.go.jp/air/osen/law/
    大気汚染の現状と対策(環境再生保全機構)
    https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/taisaku/index.html
    有害大気汚染物質(札幌市)
    http://www.city.sapporo.jp/kankyo/taiki_osen/kekka/yugai/index.html
    [GC/MS]ガスクロマトグラフィー質量分析法(材料科学技術振興財団)
    https://www.mst.or.jp/method/tabid/132/Default.aspx
    VOC(揮発性有機化合物)について(小平・村山・大和衛生組合)
    http://www.kmy-eiseikumiai.jp
    有害大気汚染物質とは(ムラタ計測器サービス)
    http://www.murata-s.co.jp/analysis/toxic

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    アサオカミツヒサ

    フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

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