なぜ味を測定することが可能なのか

なぜ味を測定することが可能なのか

「好みの味」という言葉がありますが、これは味の本質を見事に表現しています。なぜなら「好み」という主観的な要素と、「味」という客観的に確認できる現象をしっかり分けているからです。
味を正確にとらえようとするならば、「味という現象に対する人の反応」と「味が起きる現象」に分けなければなりません。
しかし味の測定はそれほど簡単ではありません。味への反応は人それぞれで、同じものを食べても、ある人は「おいしい」といい、別の人は「まずい」といいます。よって、味への反応の測定は困難を究めます。
味の測定が可能になったのは、舌のメカニズムを真似た測定機器を開発できたからです。

重要なのは甘味

甘味 測定 イメージ

「味をどう測定するのか」を理解するには、そもそも味とはなんなのかを知っておく必要があります。なぜなら味は、長さも重さも明るさも持たないので、既存の「ものさし」で測ることができないからです。どう測るかを知るために、何を測るのか押さえておきましょう。
味には甘味、うま味、塩味、苦味、酸味の5種類があり、最も重要なのは甘味です。その次に重要な味はうま味で、この2つは人が生きるために欠かせない要素です。
というのも、甘味とうま味を持つ食材には、エネルギーや栄養が多いものが多いのです。そういった重要食材が「食べたい」欲求を発生させる甘味とうま味を持っているのです。
甘味とうま味は、食べたい欲求と生きたい欲求の両方を満たす優れた味なのです。
一方、苦味と酸味はそれほど重要ではありません。苦味と酸味を発する物質は、人の健康に害を及ぼすものが多い特徴があります。苦味や酸味は「まずい」というネガティブな感情を抱かせる要素なので、人は「遠ざけたい」と思います。それで人は、自然に害を及ぼす物質を食べないで済むのです。
ただまったく要らないかというと、そうではありません。苦味のあるゴーヤや酸味の代表選手であるレモンにはビタミンが栄養に含まれています。
「甘味、うま味」と「苦味、酸味」の間にある塩味は、重要度も中間です。マイルドな塩味は重要ですが、強い塩味はそれほど重要ではありません。
塩(ナトリウム)は人体に欠かせない要素ですが、摂取しすぎると高血圧になり健康を損ないます。なので、マイルドな塩味を「おいしい」と感じ、塩を入れすぎた料理に対して「塩っからすぎて食べられない」と反応することは理にかなっているのです。
もちろん「甘いものが苦手」という人や「苦くて酸っぱいものが好き」な人はいますが、味の世界ではそのような感覚は例外扱いになっているようです。

味は大雑把に測定することに意味がある

スパイス画像

それでは本題の味の測定についてみていきます。
味を発する化学物質のことを「呈味(ていみ)物質」といい、何千種類もあります。そのため、ある食材について「呈味物質Aがxグラム入っていて、呈味物質Bがyグラム入っていて…」という測定は、ほぼ不可能ですし、あまり意味がありません。
なぜ不可能なのかというと、味は、複数の呈味物質が合わさると、化学反応が起きて変化してしまうからです。例えば甘いコーヒーミルクを測定し、砂糖、コーヒー、ミルクのそれぞれの呈味物質の含有量がわかったとしても、甘いコーヒーミルクの味を表現できません。
呈味物質が何千種類もあり、その組み合わせで味が変化してしまっては、追跡のしようがありません。
また、なぜ呈味物質の測定に意味がないかというと、人の味の評価は5つ(甘味、うま味、塩味、苦味、酸味)しかないからです。何千もの呈味物質の含有量を示されても「結局それでどのような味になるのか」がわかりません。
「呈味物質Aがxグラム、呈味物質Bがyグラム」の食材の甘味レベルと、「呈味物質Cがzグラム、呈味物質Dがwグラム」の食材の甘味レベルが同じだったら、A、B、C、Dの含有量を調べる意味がないわけです。
そこで味の測定は、人間が味を感じる舌のメカニズムを応用することにしたのです。それが味覚センサーです。

インセント社の味覚センサーの仕組み

味 測定 イメージ

株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー(略称インセント、本社・神奈川県厚木市)は、電子計測器メーカーのアンリツ株式会社と九州大学の共同研究から生まれた、味認識装置メーカーです。
インセントは味覚センサーをつくるにあたって、高選択性による技術開発をやめました。高選択性とは、何千種類もある呈味物質の含有量を1つずつ測る手法です。
インセントが採用した方法は、広域選択性です。「広域に選択する」とは、味を「大雑把にとらえる」という意味です。
インセントは甘味、うま味、塩味、苦味、酸味に渋味を加えた6種類のセンサーをつくりました。例えばあるサンプル液体の苦味の度合いを測定するときは、まずは苦味センサーを苦味の基準となる液体に浸して、基準の電位Vrを測定します。その次に苦味センサーをサンプル液体に浸して電位Vsを得ます。VsとVrの差「Vs-Vr」が、このサンプル液体の苦さになります。
その他の甘味やうま味などを測定するときも、同じ要領で行います。

脂質膜が示す電位の数値こそが「味」

味 電位 イメージ

6種類のセンサーには、それぞれ性質が異なる脂質膜という膜が貼り付けられています。脂質膜は、ポリ塩化ビニールに脂質を溶け込ませた素材です。
脂質膜に、ある呈味物質を浸して電気を流すと、ある電位の値が出ます。同じ脂質膜を使って同じ呈味物質を測定すると同じ電位の値が出ることから、「この脂質膜でこの電位の値が出たらこの味」という測定結果を出すことができるのです。
プリンに醤油をかけるとウニの味に似るという説がありますが、インセントの味覚センサーで測定すると、プリン醤油とウニは似た数値を示しました。

しっかり「ビールは苦くてうまい」「醤油はしょっぱくてうまい」と出る

インセントの味覚センサーでビールを測定したら、次のような測定結果になりました。

  • 酸味:-7
  • 苦味雑味:15
  • うま味:4.5
  • 塩味:-1
  • 苦味:7.5
  • 渋味:1
  • ・甘味:3.5

醤油だとこうなりました。

  • 酸味:-10
  • 苦味雑味:4
  • うま味:6.5
  • 塩味:15
  • 苦味:0
  • 渋味:0
  • 甘味:8

しっかりと「ビールは苦くてうまい」「醤油はしょっぱくてうまい」と測定できています。インセントが味覚センサーを開発するまでは、味は主観的に決まるので客観的な評価はできないと考えられていました。
インセントは自社の味覚センサーのことを「味のものさし」と呼んでいますが、そのとおりの実力といえるでしょう。

TS-5000Zはどのように使われているか

TS-5000Z コク キレ イメージ

インセントの主力製品は味認識装置「TS-5000Z」です。もちろん味覚センサーを内蔵しています。
TS-5000Zの製品コピーは、「人間の舌と同じメカニズムを持ち味を数値化。コク、キレも表現可能」となっています。
この装置は食品工場の品質管理に使うことができます。
またTS-5000Zがあれば、例えば都道府県ごとの住民の味の好みの傾向を計測できるので、食品メーカーがマーケティングに使うこともできます。

まとめ うまさがわかればよりうまいものがつくれる?

「この出来映えは人間でなければ生み出せない」といわれていた技術が、機械で簡単に量産できるようになると、軽い失望を覚えます。しかし、それでもまだまだ人でしか生み出せない技が数多く残っています。
装置による味の客観的な測定が100%可能になると、料理界は味気ないものになってしまうかもしれません。例えば、3万円のワインのほうが30万円のワインより「理論的においしい」ということが味覚センサーで発覚してしまったら、セレブたちは白けてしまうでしょう。
しかし機械による公正・公平なジャッジを受けると、料理人たちは奮起するに違いありません。それが新たな味を生み出すきっかけになるかもしれません。
ということはやはり、味を正確に測定することは正しいことといえるでしょう。

中古計測器、測定器を売買したい会社様へ

当サイトはAnyble(エニブル)株式会社が運営しております。 法人間で中古計測器、測定器を直接売買できるプラットフォーム【Ekuipp(エクイップ)】を提供しております。 興味がある会社様ははこちら↓。登録料は無料です。

パソコン用の画像:法人間で中古計測器、測定器を直接売買できるプラットフォーム 【Ekuipp(エクイップ)】 スマートフォン用の画像:法人間で中古計測器、測定器を直接売買できるプラットフォーム 【Ekuipp(エクイップ)】

ライター紹介
ライタープロフィール
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

ビジネス
Ekuipp(エクイップ) Magazine