こんな事件をご存知でしょうか?
これは、2010年にスイスで起きた列車の脱線事故のニュースです。
この事故の原因とされているのが、連日続いた熱波の影響によるレールの変形です。
金属をはじめ多くの物質は熱や湿度、その他さまざまな要因にって形状の変化や組織の変化が起こります。
そうした外的要因と計測や測定といった作業は切っても切れない関係にあります。今回は、そうした計測や測定に関わる、外的要因とその対処法についてご紹介してみたいと思います。
このページの目次
寸法測定でもっとも気を付けるべきは温度管理!
ものつくり、特に金属の加工においては製品の温度管理は大変重要な課題です。
その為、近年では計測環境についても様々な規定が設けられることが多く、その管理の重要性は高くなっています。
その理由は金属をはじめとする、様々な物質の温度による変化に対応するためです。
たとえは、鉄は温度が上昇すれば膨張し、温度が下がれば収縮します。冒頭に紹介した列車事故もこの金属の膨張が招いた事故です。
連日の猛暑によって熱せたれたレールが膨張を繰り返した結果、レールが予想外に変形をおこし脱線事故につながったのです。
このように、金属やその他の物質の温度による変化は思わぬ事故や故障の原因ともなる大きな変化です。
主な素材の熱膨張係数
それでは、様々な物質は温度によってどの程度変化するのでしょうか?
温度による物質の容積変化を表すものに「熱膨張係数」と呼ばれるものがあります。熱膨張率とは対象の物質が熱によってどのように膨張をするのかを表した数値です。
この数値は物質によってきまっており、温度変化のと膨張には互換性があることが知られています。
主な物質の熱膨張係数は次の通りです。
温度補正という考え方
こうしたことを基準に、計測の分野では温度補正と呼ばれる補正を行います。
例えば、設計段階での指定温度が20℃とされる製品があるとします。
しかし計測を行うのは真冬の屋外で気温はマイナス10℃。
このような場合、設計温度と実際の計測温度には30℃もの差が生まれることになります。この30℃の温度差を補正して、正しい寸法を導く方法が温度補正です。
実際にマイナス10℃の環境で計測した寸法に、対象の材質ごとの膨張係数から導き出した一定の数値を補正してやることで、実際に20℃の環境で計測した場合の寸法を求めることが可能です。
しかし、この温度補正も万能ではありません。
実際の計測の場合は次のような要因が複雑に絡みあう為、温度補正での寸法計測には限界があります。
- 製品と計測器の温度差
- 複合素材の場合の膨張係数の不確かさ
- 係数のうち、端数の処理による数値の変化
こうした要因をできるだけ排除することが、真の意味で正確な寸法計測と言えます。
適切な計測環境と設計温度
温度による寸法や形状の変化を最小限に抑え、できるだけ設計温度に近い状態で計測を行うための手段として、近年積極的に取り入れられているのが恒温室測定です。
恒温室とは?
恒温室とは読んで字の如くですが、室温を一定に管理した部屋の事で通常は20℃前後に設定されていることが多いです。
空調管理によって室温を一定にすることで、設計温度と同じ条件を作り出しその空間で計測を行うことで、設計寸法を真に満足しているかを確認する手法です。
また、金属以外の製品の場合には温度だけでなく湿度も厳重に管理されている場合もあります。
計測の準備
恒温室での測定は、ただその部屋の中で測定を行えばいいというわけではありません。
恒温室測定の基本は、整品も計測機器もすべてがその温度に保たれていることです。そのため、恒温室測定を行う製品は事前に恒温室に運び入れ、整品そのものの温度を設定した温度になじませておく必要があります。
つまり、加工後即座に計測を行えるというわけではありません。
設計時の温度配慮が重要な訳とは?
では、なぜ設計段階で温度的な配慮が必要なのでしょうか?
冒頭の脱線事故を思い出してください。
線路を設計した設計者は
「この線路は温度が上がってもこの程度だろう」もしくは最悪の場合「温度による変化はなどたいした問題ではない」と考えていたと推測できます。
しかし実際は、線路は非常に長い距離に渡り敷設されるため、レール一本いっぽんでは大した寸法の変化は起きませんが、それが100m・1000m・10000m累積していくことで、寸法の変化は膨大なものとなって、脱線が起きるほどにレールを変形させました。
また、近年のものつくりでは二つの製品を組み合わせる場合などに求められる、双方のクリアランス(隙間)はどんどん小さくなる傾向にあります。
これはクリアランスを小さくすることでより効率的に稼働したり運動したりすることができるよう設計者が意図しているためです。
こうした極小のクリアランスを求める場合、各製品の膨張率を無視した設計は考えられません。
実際に製品が使用される場合の想定される温度までも考慮した設計が必須なのです。
精密計測には準備や環境が必要
こうした精密計測を実現するためには様々な準備や環境が必要です。
過度な精密計測は無駄なコストを生むデメリットもありますが、計測の精密さを考える上で計測環境を考慮することは現代のものつくりにおいては、必要不可欠な思考と言えます。