国土の高さは「宇宙から空から重力から」測る

国土の高さは「宇宙から空から重力から」測る

国土地理院は2018年から、日本の国土の高さを測る手法をリニューアルします。宇宙から、そして空から土地の高さを測ることで、計測作業の省力化とスピードアップを図るのです。
今回はその新しい技術を紹介するわけですが、同時に重力についてもみてみます。
国土の高さを超厳密に測るには、重力を計測しなければならないからです。「普通の高さ」は重力の影響を受けませんが「国土の高さ」は重力によって微妙に変わるのです。そしてその重力は場所や高さや時間によって変わるのです。
「国土の高さ」の追跡は、とても大変な作業なのです。

「わずか4km測るだけなのに大げさ」ではない

富士山 高さ 測定

日本で一番高い場所は富士山の頂上なので、最長4kmぐらいを測ることができれば、国土全体の高さを測ることができそうです。そして高さの値なら、三平方の定理を使えば簡単に割り出せそうです。三平方の定理とは中学で習う「直角をはさむ2辺の長さをA、Bとし、斜辺をCとしたとき、A×A+B×B=C×C」という公式です。
なのになぜ、国土地理院は国土の高さの計測に苦労しているのでしょうか。そこで国土の高さの新しい測り方を解説する前に、

  • なぜ国土の高さを測るのに最新技術が必要なのか
  • なぜ「いま」計測しなければならないのか
  • 国土の高さはなぜ変わるのか

についてみていきましょう。

なぜ最新技術が必要なのか

水 流れ 高さ

国土地理院は2018年から、国土の高さ計測方法をリニューアルするのですが、この年はまだ開発をするだけです。それでも年間の予算は1億6千万円もかかります。新しい計測方法を運用するのは2023年ですので、2019~2022年の間も開発費がかかるわけです。
なぜこれほどのお金をかけて国土の高さを正確に測るのかというと、地面の水がどのように流れるか知っておかなければならないからです。水が流れる方向を正確に予測できないと、防波堤をつくることもできません。また上下水道を設置することもできません。
水は高いところから低いほうへ流れます。例えば標高1メートルの地面に水を垂らすと、水は標高70センチのほうに向かって流れていきます。ところが同じ高さ1メートルの場所に水が流れていくこともあるのです。
それは、場所によって重力が違うからです。高さが同じ2つの場所があったら、水は重力が軽い場所から重力が重い場所に流れていくのです。「重力が水を押している」イメージです。
ただ、重力の違いは極めて微妙です。そのため、厳密な方法で計測しなければなりません。しかも災害が起きたら、いち早く地面の高さを計測して復旧工事をしなければなりません。
国土の高さをより正確に、より素早く計測するために、最新技術が必要になってくるのです。

なぜ「いま」計測しなければならないのか

地震 ひび割れ

2016年の熊本地震のとき、被害地域の多くの地点で高さが変わりました。しかも高さの基準となる水準点も破壊されてしまいました。国土の高さは、まず水準点の高さを厳格に測り、水準点以外の場所の高さは水準点との差を測ることで計測しています。
地震の復旧工事はまずは水準点をつくり直さなければならないのですが、熊本地震ではそれに4カ月を要しました。国土地理院が2023年から稼働する新しい計測方法だと、熊本地震と同じ被害が起きたら1カ月ほどで水準点を復旧できるそうです。

GPSと航空機を使えば楽々測定

航空機

現行の国土の高さの計測方法はとても手間がかかります。水準点と計測地点の高さの差を測り、水準点の高さからその差を足したり引いたりしなければならないからです。10の計測地点の高さを計測するときは、水準点との差を10回測定しなければならないのです。作業員は最低でも4人必要です。
しかも水準点は全国に約17,000点あり大体2kmごとに設置しているので、計測地点が広範囲になれば基準として使う水準点も変えていかなければならないのです。
一方で、国土地理院の新しい測定方法は、全地球測位システム(GPS)衛星と航空機を使い、効率的に作業していきます。
GPS衛星から電波を発射し、電子基準点でその電波を受信すれば即座に正確な数値が出ます。電子基準点は、水準点とは別に設置されている基準点で、全国に約1,300点あり大体20kmごとに設置されています。電子基準点には衛星からの電波を受信する装置があり、電波で測定した数値は茨城県つくば市にある国土地理院に回線を使って送られています。
さらに重力の計測も、新しい方式は航空機を飛ばしながら一気に行うので、人手がかかりません。
新しい方式なら、現場に作業員を1人派遣するだけで済みます。

国土の高さはなぜ変わるのか。高さと重力の深い関係

果実 重力

A地点とB地点の高さが同じく1メートルだったとしても、「国土の高さ」としてみた場合、「A地点とB地点は高さが異なる」と判定されることがあります。それは重力の影響を加味しなければならないからです。
重力は場所によって変わってくるので、「国土の高さは場所によって変わる」といえます。
高校の物理では「地球の重力は9.8m/s2」と習うのですが、実はこれは大体の数字です。重力は、引力と遠心力の影響を受けます。引力は地球上どこでも同じ値ですが、遠心力は北極と南極が最も小さく、赤道が最も大きくなります。遠心力は小さく回転するよりも大きく回転したほうが大きくなるからです。遠心力が大きくなると重力が小さくなります。

北海道の重力は沖縄の重力より0.15%も大きい

北海道の重力は、沖縄の重力より0.15%ほど大きくなっています。沖縄で、ある量りで金を量ったところちょうど1㎏(1,000g)だったとします。同じ量りを使って同じ金を北海道で量ると1,001.5gになってしまうのです。そのため金の量りには、地域によって補正できる機能がついているのです。

国土地理院も国土の高さを測定するときは「見た目の高さ(または幾何学的な高さ)」に重力補正をして「水の流れがわかる国土の高さ」を算出しているのです。

鏡を落として10億分の1まで厳密に測る

国土地理院は重力を、絶対重力計という計りで計測します。
絶対重力計には真空の筒があり、その筒の上部から小さな鏡を落とします。レーザーで鏡が落ちた距離と落ちるまでの時間を測定します。時計は「ルビジウム原子時計」という超正確な時計を使います。鏡が落ちた距離と時間で、重力加速度がわかり、そこから重力が算出できるのです。鏡を使うのはレーザーで検知しやすいようにするためです。
国土地理院の絶対重力計は、重力を10億分の1まで測ることができます。

重力は高さでも時間でも変わる

重力は場所だけでなく、高さでも変わります。同じ場所で重力の値を計測すると、高いほど小さく、地面に近いほど(地球の中心に近いほど)大きくなります。国土地理院の絶対重力計は高さ1メートルの違いの重力値も検知できます。
例えば東日本大震災では地殻変動によって1メートル以上地盤が落ちた場所があります。そうなると、同じ場所でも重力が大きくなってしまうのです。
さらに重力は、時間でも変わります。月や太陽の位置の変化によって、重力が変化してしまうのです。

そのほかの重力計

絶対重力計は真空の筒やレーザーが装着されているので大型で大量の電気を使います。持ち出しが不便で、屋外では使えません。絶対重力計だけでは多くの場所で重力を計測できないので、簡易型で軽量コンパクトなラコスト重力計という重力計もあります。
ラコスト重力計のなかには重りをつけたバネがセットされていて、ある地点で計測したときのバネの長さと、別の地点で計測したときのバネの長さの違いで、重力値の差を測ります。ラコスト重力計は、2つの地点の重力の値の「差」しか計ることができません。
重力の値にも水準点のようなものがあって、それを基準重力点といいます。基準重力点の重力の値は絶対重力計で測り、それ以外の場所の重力の値を測るときはラコスト重力計を使います。

まとめ~国土地理院はじっくり確実に準備を進める

国土の高さを測ることの難しさや、国土の高さと重力の意外な関係を紹介しました。国土の高さは、最新技術を使いじっくり確実に行う必要があります。
国土地理院は2018年から衛星と航空機を使った測定方法の開発に着手したわけですが、実はこの2年前の2016年にその「下準備」といえる事業を行っていました。
それは「日本重力基準網2016」です。
日本全国の基準重力点を計測する事業で、約40年ぶりの実施になります。国土の高さを測るにはまず重力計測から、というわけです。

中古計測器、測定器を売買したい会社様へ

当サイトはAnyble(エニブル)株式会社が運営しております。 法人間で中古計測器、測定器を直接売買できるプラットフォーム【Ekuipp(エクイップ)】を提供しております。 興味がある会社様ははこちら↓。登録料は無料です。

パソコン用の画像:法人間で中古計測器、測定器を直接売買できるプラットフォーム 【Ekuipp(エクイップ)】 スマートフォン用の画像:法人間で中古計測器、測定器を直接売買できるプラットフォーム 【Ekuipp(エクイップ)】

ライター紹介
ライタープロフィール
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

ビジネス
Ekuipp(エクイップ) Magazine