普段は様々な試験機をご紹介しているこちらのHPですが、今回はちょっと趣向を変えて試験機無しでもできる素材の識別方法についてご紹介してみたいと思います。
現在では数多くの金属素材が開発され、1パーセントにも満たない元素の含有量の差によってその鋼種が事細かに分類されています。
もちろん、そうした細かな鋼種の判別には「X線検査機」や「PMI検査機」などの特殊な検査器具が不可欠です。
しかし、加工の現場においてもっと簡単に素材の特性を見分けることができる方法があります。それが今回ご紹介する「火花試験」と呼ばれる素材判別試験です。
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素材を識別する大切さ
日本で近代的なモノ作りが開始された当初、国内には特殊鋼と呼ばれる鋼材はほんの一握りしか存在していませんでした。
それだけに、鋼材によるその特色の違いは非常に大きく用途を間違った鋼材を使用してしまう事は大きなトラブルにもつながる大問題でした。
その当時から、整品とその素材の関係は非常に重要視されており、間違った素材を使用しないための様々な工夫が試みてこられました。
その一つが、今回ご紹介している「火花試験」です。
ではなぜ、材質の違いによって大きなトラブルが発生してしまうのでしょうか?
事項では素材の取違いによるトラブルの事例と、その科学的な原因についてご紹介します。
素材の特性が分からないことで起こるトラブル その1.加工機の故障
素材が分からないことで起こるトラブルの一つに、加工機器の故障があります。
素材がはっきりしない=硬さや強度が分からず、無理な加工を行ってしまい結果として加工機を壊してしまうなんてことが起こってしまいます。
加工機は適正な条件で使用して初めてその能力を発揮してくれます。素材の特性が分からないままでは能力を発揮する前に故障してしまってもおかしくありません。
素材の特性が分からないことで起こるトラブル その2.製品の強度不足
機械部品などの場合、素材を取り違えてしまったためにその強度が不足し結果として機械が欠損してしまう事も考えられます。
また、一部品の欠損が原因で他の部品までもに支障をきたし、機械全体如いては工場全体が稼働できなくなる可能性さえも秘めています。
火花試験の概要
では、現在のように科学的に素材を分析するすべのなかった時代、どのようにして鋼材の種別やその特徴を把握していたのでしょうか?
鋼材に含まれる金属元素には、燃焼を伴った酸化の際に特徴的な火花を形成するものが何種類かあります。
また、鉱物の含有は金属の特性に大きな影響を与える為、火花試験によって確認された様々な元素がどの程度含まれているかを把握することで、対象の金属の大まかな特性をつかむことが可能です。
それぞれの含有物による火花の特性
ここからは具体的に火花の違いと含有元素やその分量についてご説明します。
鋼材に含まれる元素のうち、最も鋼材の特性に影響を与える元素が「炭素」です。炭素はその含有量が多くなればなるほどに鋼材の硬度を高く保つことができるという特性があります。
また、炭素は一般的にいう「炭」ですので、火花試験でも特徴的な火花を形成します。
一般的な炭素鋼の火花試験の見本が上のイラストになります。基本的には炭素の含有量が多くなると火花の形状が長く複雑になっていきます。
また、他の元素が含有することでその火花の形状は更に複雑に変化してしていきます。特にモリブデンやリン・窒素などは特色的な火花を形成することが知られています。
そうした元素ごとの火花の特色とその組み合わせによって、対象の鋼材がどのような特性を持ている鋼材なのかを把握するとができるのが、火花試験の有用性です。
火花試験は簡易であることも重要
また、火花試験は試験の実施に際し特別な道具(測定機器)を必要としないことも、大きな特色の一つです。
もちろんすべての現場にきちんとした試験機が備わっていることが理想です。しかし現実は違います。
そのような場合、何も根拠のないままに加工を行うよりは、たとえ簡易的であっても素材の特徴をつかむことのできる火花試験は、加工においても重要な情報を与えてくれる大切な試験と言えます。
性格に把握するには測定機器は不可欠
しかし、近年では特殊鋼はその種類や用途が数限りなく存在し、設計の段階からその鋼材の特色を生かすことを前提とした設計が行われています。
前述のように特殊鋼と呼ばれる鋼材が限られた種類しか存在しなかった時代とは違い、現在では無数の特殊鋼が、数多くの用途に向けて開発・使用されています。
そんな現代では、ものつくりの現場で鋼種の混在が発生することは許されることではありません。
火花試験は最後の砦と考え、鋼種の混在が発生しない職場環境と混在の発生した場合の適切な分類・分別のできる測定器は、必要不可欠な要素となっています。