美術品は”現場で”測る!芸術遺産の修復保全に大活躍のFTIRとは?

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FTIRについては以前にもご紹介しています。計測器、測定器紹介 vol. 7 – フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)

このFTIRが、美術品や芸術遺産の分野で重要な役割を果たしているのをご存じでしょうか。今回は美術品の修復保全に大活躍のFTIRについてまとめてみました。

FTIRによる美術品の科学的調査

FTIR(フーリエ変換赤外分光法)とは

有機化合物に赤外線を当てた際に吸収される光の波長分布を分析し、対象物の構造を知る方法です。分析する装置には、顕微鏡で観察しながら、有機物などに対象を絞って行えるような装置もあります。

何種かの物質が混ざっていると、ピークが重なってしまって物質の特定が難しい場合も出てきます。絵画には、油などの媒材であったり、ニス、有機顔料といった、有機物質が使われています。これらの有機物質の同定に、FTIRは非常に有効な方法だと考えられています。

FTIRの有効性

FTIR は、物質の同定や特定に最適な分析手法であり、さまざまな分野で活用されています。例えば、赤外線の吸収帯を測定分析することにより、物質を構成する成分や分子構造を推定することが可能になります。すなわち、定性・定量に有用な情報を得ることもできるのです。

最近では、FT-IRを用いた美術品の分析が一般的にも普及してきており、修繕保全を必要とする美術品や絵画、オブジェなどに用いられている各種物質に関して化学的な知見を得られるようになってきました。修繕保全にもっとも適した方法と、材料の選定において重要な役割を果たしていると言えます。

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FTIR法は、美術品や歴史的遺物など貴重な品々の保存修復や真贋の確認などの目的で、以前より用いられてきました。しかし、FTIR は分析ラボ内での測定に限られることが多く、現場で実物を測定することはレアケースでした。フレスコ画や壁画といった美術品をFTIR で分析するためには、作品の一部を採取して、分析ラボに持ち込んで分析するという方法が一般的にとられていました。

つまり、美術品を”破壊”しなければならないため、測定する部分や量が限られ、また輸送等にかかるコストや時間や手間という面でも調査のハードルを上げていました。そのために、美術品の保全目的においてFTIRが有効であることは認められていましたが、実用的な活用範囲としては普及してこなかったのです。

ハンドヘルド型分光光度計

ハンドヘルド型 FTIR 分光光度計の登場

FTIRの実用性を一気に高めたのがハンドヘルド型 FTIR 分光光度計の登場です。ハンドヘルド型を使えば、貴重な品物を移動させたり、分析のためだけに貴重な美術品からサンプルを採取することなく、分析を実施することが可能になったのです。

(アジレント・テクノロジー社:Agilent 4100 ExoScan FTIR/ Agilent 4200 FlexScan FTIRなど)

ハンドヘルド型FTIR分光光度計をFTIR 分光法を用いる利点として、この分析ならではの感度、同定性能、そして非破壊分析が可能であることが挙げられます。

一般的な活用用途としても、絵の具や結合剤、ラッカー、仕上げ剤の分析などが上げられます。さらに、保護コーティングの酸化度合い、コーティングの効果といったものまで分析することが可能です。美術品の保全という観点では、劣化により生じてくる化学的変化を測定することにも活用されます。

従来のラボに設置して使用するFTIR 分光光度計では、非破壊分析が可能であるとはいえ、大抵の測定で分析対象物からサンプルを少量採取する必要がありました。

分析対象である美術品などの損傷を最小限に抑えるため、採取されるサンプルはきわめて少量になり、殆どの場合は顕微赤外分光法を用いて測定されることになります。

少量であっても、サンプル採取によって貴重な品に損傷を与えるのが実情でした。また、少量サンプルのみでは、特定の部分のみの採取になるため、対象物自体の広い部分での化学的組成を代表していない可能性もゼロではありません。

修復過程で継続的にモニタリングしていくことも、サンプル採取による損傷の度合いを増幅させてしまうため、望ましいとは言えません。

ハンドヘルド型 FTIR 分光光度計の圧倒的な利点は、現場までシステムを運ぶことができるため、小型で、分析対象物がラボにあっても、美術館のフロアにあっても、屋外にあっても測定を可能にしたことです。そして、サンプルを全く採取することなく分析が可能になりました。このことから、真の意味での非破壊分析ができることとなり、分析対象物の”広い領域”を”迅速”に測定することが可能になりました。

ハンドヘルド型 FTIR分光光度計の主な機能

( Agilent 4100 ExoScan FTIR、 Agilent 4200 FlexScan FTIR)

  • 絵の具、紙、文書、原稿、歴史的写真、彫像、建築物、タペストリー、タイル、モザイク、木材などの分析。
  • 洞窟絵画、天井画、モザイク画、移動できない大型美術品がある考古学発掘地や史跡での使用。
  • 天然および合成有機および無機顔料、着色剤、染料、乾燥結合剤、ラッカー、樹脂、コーティング剤、接着剤、繊維などの同定分析
  • UV照射、熱、環境汚染に起因する損傷などの劣化の影響の測定
  • 貴重な歴史的遺物の洗浄および修復のサポート
  • 偽造品、修復された品の同定

このように、性能面では、従来のベンチトップ型システムに匹敵し、有益な情報を十分得ることができます。高品質のデータを採取し、情報量も豊富です。

(※下記、出典元1より引用)

ハンドヘルド型 FTIR分光光度計の活用事例

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対象物が大きすぎたり、歴史的重要性が極めて高く、分析のためにラボへ運べない例もあります。特にその美術品の多くの部位を調査しなければならない場合には、サンプルを各場所から採取することも望ましいことではありません。そのため実物のある現場で使用できるハンドヘルド型 FTIR 分光光度計はきわめて重要な役割を持ちます。

有効に活用された例として、台湾・北港朝天宮の彩色扉の劣化状況を、拡散反射サンプリングアクセサリを搭載した Agilent 4100 ExoScan FTIRを用いた事例があります。

この扉の劣化した塗料の赤外スペクトルでは、シュウ酸塩、炭酸カルシウム、セルロースの存在量に差異があることが分かりました。

シュウ酸塩は、菌類や藻類などの微生物の副生成物として知られている物質です。微生物が排出するシュウ酸により、塗料の顔料がダメージを受けることがわかっています。

彩色扉の様々な部位を分析した結果、様々な量のシュウ酸塩の存在が分かり、混合塗料の主要成分の特定に至りました。サンプルを採取したり、扉を破壊したりすることなく高度な分析が行えることを証明した事例となっています。

このように、”現場”で使えるFTIRは芸術保全の分野で重要な役割を担う存在として確立されました。

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ライター紹介
ライタープロフィール
Curumi

京都大学文学部卒、企業の人事部や編集部を経て現在は在宅でライティングを中心に活動。企業広告やファッション等さまざまなジャンルに取り組んでおります。関西在住、小学生男子育児に日々奮闘中です。

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