
はじめに
前回の記事(「ストラディバリなどヴァイオリン名器の”音色”を測定するには?」)ではヴァイオリンの音色を客観的に測定する試みについてご紹介しました。
ヴァイオリン本体製作上の”技術”や”デザイン”から、何百年も前の名器の素晴らしい音色が立証されることが分かりました。
それでは、本日は、異なる楽器の音の違いはどのように測定できるのかという側面についてまとめてみたいと思います。
私たちが「これはヴァイオリンの音だ」「これはピアノの音色だ」と聴き分けることができるのは、音の仕組みがどう関係しているのでしょうか?
コンサートホールの客席など、”受音点”での周波数の違いによる音圧レベルの変化を示す特性を、伝送周波数特性といいます。この伝送周波数が楽器の音の違いに深く関わっているようです。
楽器の音を”測定”すると
音と周波数
音として伝わる空気の振動回数が周波数です。 振動回数が多ければ音は高く聞こえ、逆に振動回数が少なければ低く聞こえます。
音は、高音から低音までが混ざったものが、1つの音として聞こえています。
例えばピアノなら、中音域の”ラ”音は、440Hzの一つだけの周波数で振動している音なのではなくて、1オクターブあるいは2オクターブ高い音や少し低い音、様々な振動がミックスされて”ピアノの一つの音”として聞こえているんですね。
基本周波数と倍音
オクターブの音は、倍や半分の特殊な音程関係にあります。オクターブ関係にある高い音は、ぴったりと振動周期が一致します。例えば、たくさんのオクターブ関係の音が、ラの440Hzという周期でちょうど一致することで、全体で440Hzの周期を持つ音として規則性が生まれるのです。それによりミックスされた複数の周波数の成分を持つ音が、440Hzの音程を持つ音だと感じます。
周期性のある周波数を「基本周波数」と呼び、それに対し、オクターブ関係にある音など、他の成分の音を「倍音」といいます。倍音は基本となる音の周波数の倍の周波数を持つ音になります。例えば、100hzの音があったとしたら、倍の200hzの音が倍音。100hzの3倍の周波数は300hz、3倍4倍5倍と、それぞれ倍音があるのです。
人は、倍音の出方や種類によって、ピアノの音だとか、バイオリンの音だというように聞き分けることができるのです。 ピアノのオクターブ関係にある2つの鍵盤を鳴らせばオクターブの和音が出ますが、大変調和して聞こえますね。それはこの倍音構成を考えても明らかなのです。
その楽器特有の音というのは、倍音が深く関係していることが分かりました。
さらに、発生する周波数というのは楽器本体の大きさや長さに密接に関わっています。
弦楽器を例に挙げれば、バイオリン→ ビオラ→チェロ→コントラバスと本体が大きくなり、発生する周波数帯域は順に低くなっています。
サイズが小さいバイオリンの弦の振動は小さく早いのに比べ、逆にコントラバスの弦の振動がは大きくゆっくりとしているので、周波数帯域に違いが生じることになります。
打楽器に関しても同様に、大太鼓の膜は大きいので膜が大きくゆっくり振動し低い音を、小太鼓の膜は小さい ので膜が早く小さく振動し高い音となります。
さらに管楽器では、共鳴管の長さを変えることで音の高さを変えられます。
金管楽器はバルブやスライド機構を使って、木管楽器は管にあいた音孔を指でふさいだり開けたりすることで共鳴管の長さを変えているのです。管が長くなるほど低い周波数が生じます。
一般的に楽器が大きいほど低い音、小さくなるほどに高音を出すことになります。
楽器による音色の違い
楽器が異なると、同じラの音を出しても違うものに聞こえます。
音の性質というのは、音の高さだけでなく音色も関係します。
例えば、基本周波数を 440Hz とするクラシックギターと三味線の同じ高さ(=周波数)の音を比較すると、同じような繰り返しのパターンが見られますが、波形がずいぶん違うことがわかります。
図解: クラシックギターと三味線の時間波形と周波数解析結果の比較(基本周波数440Hz) 出典元:徳島達也「音響解析による和楽器の特徴について」,2010 年度日本海学グループ研究支援事業論文
この違いこそが音色であり、人間の耳はこれを聞き分けることができます。上記の図では楽器の波形のほか、周波数解析の結果も示しています。
楽器ごとに材質や仕組みは異なります。それにより、異なる周波数成分の音が含まれるので同じ音には聞こえないんですね。
私たちが「この楽器はこんな音」と自然に感じている背景には、特定の周波数に対する”倍音”がこんな形で影響していることが分かりました。
普段当たり前のように感じている、楽器特有の音が奏でられること、音楽の多様性について、科学的に読み解くことは、音楽をまた別の角度から楽しめる体験になるのではないでしょうか。