自動車づくりは測定との格闘

自動車づくりは測定との格闘

日本の自動車メーカーを不正検査問題が襲いました。ニッポン品質への信頼を大きく揺るがしかねないだけに、1日も早い解決を期待したいところです。
「測る回数が多いから不正してしまった」という言い訳は通用しませんが、それにしても自動車づくりは測定、測定、測定と、測定の繰り返しです。何から何まで測ります。自動車をつくるときにこれだけしつこく測定するのは、部品のちょっとした狂いで大事故を起こしてしまうからです。
そこで今回は自動車づくりにおける測定に焦点を当ててみました。

1台の自動車をつくるのに最低3万回は測る

車 測定

1台の自動車をつくるのに何回測定するのでしょうか。恐らく自動車メーカーですら数えられないでしょう。ただ次のことだけはいえます。
「1台の自動車をつくるのに最低3万回は測っている」
なぜなら1台の車は、3万個の部品で構成されているからです。3万はネジ1本も1個と数えた数字です。ネジメーカーもネジを測定しているので、ネジ1本について少なくとも1回は測定していることになります。
最小単位の部品がいくつか集まって、シートやハンドル、ヘッドランプ、エンジンなどの「塊としての部品」ができます。そして「塊としての部品」が完成したら、そのときも測定します。さらに「塊としての部品」を結合させて自動車ができあがったときも、測定します。
さらに、1部品で1回しか測定しないことは珍しいので、もし1部品で2回測定したら、それだけで測定回数は6万回になります。だから、自動車の測定回数を正確に数えることは難しいのです。

「大きいと困る、ゼロでも困る」音と振動の測定は難しい

車 音 振動

3万回もの測定をすべて紹介することはできないので、そのなかから「音と振動の測定」をみてみましょう。
自動車が出す音は騒音と呼ばれ、普通は迷惑なものです。また自動車が生み出す振動は運転車や同乗者を不快にさせるので、これも普通はないほうがよいとされています。
よって、音も振動も少ない自動車は優れていることになるのですが、「無音」「振動ゼロ」の自動車をつくるわけにもいかないのです。

なぜ無音も振動ゼロもダメなのか

無音、振動ゼロの自動車をつくっていけないのは、運転者が不安になったり違和感を持ったりしてしまうからです。加速やスピードの度合いによって音や振動が変化することで、運転者は大体の加速やスピードを把握することができます。
運転者は、道路の観察やハンドルなどの操作に集中しなければならないので、ずっとスピードメーターをながめているわけにはいきません。つまり無音と振動ゼロは、運転者の貴重な情報収集の機会を奪ってしまうことになるのです。
無音、振動ゼロの自動車は運転しにくいですし危険なのです。そのため自動車づくりでは、不快な音や問題のある振動を除去しつつ、必要な音や振動を残すために、音と振動を厳格に測定する必要があるのです。

従来の音と振動の測定方法とその問題点

自動車の音と振動を測定するには、音と振動の源となっているエンジンや吸排気部品などの「音源」から、音と振動を感じるシートや運転者の耳の位置の「応答点」までの伝達経路を解析する必要があります。なぜなら、自動車のあらゆる場所で発生する音と振動の総和が、人が感じる音と振動になっているからです。
ちなみに自動車業界では、振動の源も「音源」と呼んでいます。
音と振動の伝達経路解析を得意とするのが、株式会社東陽テクニカです。
東陽テクニカの測定方法を紹介する前に、従来型の測定方法を紹介します。
自動車で最も大きな音と振動を発生させるのはエンジンです。そこで従来は、自動車からエンジンをいったん取り外して、まずはエンジン単体の音と振動を測定していました。
また、自動車は3万点もの部品で構成されているので、音と振動は音源から応答点までの間に漏れたり迂回したりします。音と振動の漏れや迂回のことをクロストークというのですが、このクロストークも測定していかなければなりません。
よって自動車のあらゆる部分を、音を測定するスピーカーや、振動を測定するハンマリング機器を使って測っていかなければならないのです。従来の方式では、1台の自動車の音と振動を測るのに2~3週間かかっていました。

東陽テクニカの音・振動測定方法とは

東陽テクニカは、PAKシステムというコンピュータで音と振動を測定する方法を開発しました。
PAKシステムでは、ハンマリング機器やスピーカーで物理的に振動と音を測定する必要がないので、自動車からわざわざエンジンをおろさなくて済むようになりました。PAKシステムでは、自動車の各所にセンサーを取り付け、それをコンピュータソフトで解析するのです。

自動車内にセンサー網を張り巡らせているので、音や振動がどこで漏れてどこを迂回しているかもすぐにわかるようになりました。さらに収集した音と振動をデジタルデータとしてコンピュータ内に蓄積することができるので、シミュレーションができるようになりました。
PAKシステムによって1台の自動車の音と振動を測る期間は、2~3日まで短縮されました。

東陽テクニカはさらに、PAKシステムを発展させたRMAシステムを開発しました。RMAシステムは、目標とする音と振動を実現させるために改良・変更・対策すべき部品を推測することができます。例えば「パワーのある自動車らしく、重低音が際立つ排気音を演出したい」といったことも、簡単に行えるようになりました。

従来の「悪い音と振動を消す」方法から「良い音と振動を生み出す」方法に進化したのです。

デンソーは測定することを測定する

車 メンテナンス

自動車部品大手のデンソーグループには「測定を測定する」子会社があります。
自動車を測定する場合、その測定方法や測定機器が正しくなければなりません。そこで株式会社デンソーエムテックは、正しく測定できているかを測定するビジネスを展開しているのです。

90種類の測定機器を調べる

デンソーエムテックの事業の1つに計測管理サービスがあります。このサービスのなかに計測器の校正という業務があるのですが、これが「測定を測定する」測定になります。
自動車製造では、

  1. 長さ
  2. 力学
  3. 温度・湿度
  4. 電気・磁気
  5. 波形
  6. 信号
  7. 回転・周波数
  8. 流体・光
  9. 音・振動

などを測定しなければなりません。
例えば長さの測定では、ノギス、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、変位計などの測定機器を使います。力学の測定には、天秤、計数器、分銅、荷重計、圧力計、トルクレンチなどの測定機器を使います。
デンソーエムテックが校正する計測器の種類は90ちかくにのぼります。同社は、大型の測定機器を校正するときは現地の工場に出向きますし、小型の測定機器であれば取り寄せて校正します。
自動車メーカーが使っている測定器が正しく測定できているかどうかは、「標準器」を使います。例えば分銅は、1gのものを測定したときに1gと表示されなければなりません。ということは、分銅を測定するときは「まったく誤差のない1gの物体」を用意する必要があります。この「まったく誤差のない1gの物体」のことを標準器といいます。
長さや温度や電気の測定機器の正しさを測定するにも、それぞれの標準器が存在し、デンソーエムテックでは国家標準の標準器を使っています。
また測定機器を測定する部屋は、気温による誤差を生じさせないために、室温を20度プラスマイナス1度に設定します。

修理ではマイクロメートルレベルの誤差も見逃さない

デンソーエムテックでは、測定機器の狂いを発見したら、そのまま修理したりオーバーホールしたりしています。誤差の修正はマイクロメートル(1マイクロメートルは10のマイナス6乗メートル)レベルで行っています。

まとめ~測り続ければ故障原因を素早く特定できる

自動車は3万個の部品を使っているので、故障の原因が3万個あるということです。しかも最近は自動車製造でもモジュール化が進み、部品メーカーがある程度組み立ててから自動車メーカーに納入するようになりました。
自動車メーカーからすると、多くの部品がブラックボックスになっているわけです。そのブラックボックスに不具合の原因があることまでは特定できても、そのなかのどの部品に間違いが起きているかは、部品メーカーでないとわからないということです。
つまり「測定方法」や「測定の測定方法」だけでなく、親会社子会社を含めてどのようにして測り、測ったデータをどのように管理していくかという「測定体制」についても考えていかなければならないということです。

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ライター紹介
ライタープロフィール
アサオカミツヒサ

フリーライター、ライティング事務所office Howardsend代表。北海道大学法学部を卒業後、鉄鋼メーカー、マスコミ、病院広報などを経て2017年独立。取材した分野は、地方政治、地方経済、過疎化、ワーキングプアなど。現在の執筆領域はIoT、AI、産業一般、人事制度、金融、最新抗がん剤、生活習慣病治療など。趣味はクルマとバイクと登山。北海道釧路市在住。

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